第3話「人形の誇り」18

 続いて向かったのは生徒会室だった。人形遣いについてはある程度知識を得たので、次はそれを専門で扱っている人間に話を聞こうという魂胆だったが、どうもあの生徒会長とは気が合わないからか足取りは重い。

確かに先日の騒動では手を組み、報酬代わりにレイセスに対しての態度を改めるようにと忠告もしたが、根っこの性格そのものが苦手なのかもしれなかった。


「気が重いけどこいつに聞かなきゃ分からないんだろうな……」


 他の教室よりもほんの少しだけ豪華な戸。あくまでも木製の戸に彫刻が施されている、というだけだが。


「あー……考えるのもめんどくせえ。入るわ」


 戸を叩き、中の返事を待たずに取っ手を回す。居るかどうかは気にしていなかった。


「やあどうしたんだい? 幸い仕事が無くて暇だったんだ」


「暇潰しの相手になってやるつもりはないが……聞きたい事がある」


 綺麗に整理された部屋の中に居たのはモルフォだ。部屋の窓際に設置された机で作業をしていたようだったが、その手を止めて昴たちに向かう。


「なんだい? 知っている事なら何でも。ああ椅子ならどれを使っても構わないよ」


「はあ……長居はしねえよ。ただ聞いたらすぐ帰る。率直に言うぜ? さっきの襲撃事件? あれに使われてた人形ってやつについてだ」


「スバル、隠さなくて良いんですか?」


 昴の隣に座ったレイセスが小声で言う。先程までは素直に話す事など無かったのにどうしてここでは話す事にしたのだろうか。


「こいつには隠しても仕方ないだろって思ってな。どうせ教師陣からも何か聞かれてるだろ」


「ああ聞かれた。この人形はクレイ家で作った物だな、ってね」


 腕を組み、溜め息混じりに言葉を投げると予想通りの答えが返ってきた。その言葉にはどこか苛立ちを孕んでいるようにも聞こえる。


「で、実際のところはどうなんだよ」


「……確かに、素体構造だけを見るのならうちの人形師が作った物に間違いないだろうけど内部がほとんど違う。精巧と精密なんていうのとはかけ離れてるからね」


「ガワだけ被ったパチモンってところか……? だとするとなんだ、内部犯行的な感じを疑われてるのか」


「まあそういう事になる、かな。ただその点で考えるなら兄さんは確実に関わっていないという事だね。まあ兄さんは……それで、聞きたい事は何だったっけ」


 自身の兄の犯行では無いという事には安堵しているのか、何かを口走りそうになるモルフォ。しかし昴の用件を思い出して、促した。


「ああ俺が聞きたいのは人形ってやつの……んーズバリ弱点だな。恐らく、だけどまた殴り合いになるだろうし。犯人を見つける前になりそうな予感があるから」


 昴が聞きに来たのは人形その物の弱点。なるべくなら穏便に事が運べば良いがそうもいかないだろう。知っておいて損はない、という事だ。

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