第3話「人形の誇り」20

「続いて内部構造なんだけど、さっきの事に質問があるなら答えるよ」


 面接などの相手側から良くされる質問である。特段聞きたい事がある訳でもないのだが、聞かないのは印象が悪くなる可能性が高いという謎めいたもの。

しかし今回はそのような場ではないので、昴もレイセスもほんの少しだけ考えてから静かに首を振る。特に昴が聞きたいのは人形の弱点のみだ。その他の情報も確かに不必要ではないにしろ、今必要にはならないだろうと割り切った。


「それじゃあ内部だ。ここは人間で言うと内臓……そこまで説明は求めてないって顔してるね……」


「そりゃそうだろ。早急に欲しいのは相手を倒せるだけの情報だけだぜ? 頑丈に出来てるのは分かった。けど、ガワの素材? とかについての情報は知ったところでしゃあないしな。ぶち抜けばいいし」


「そこまで言われると教える役は僕じゃなくても良いような気がしてくるんだよね……」


「どういう意味でしょう? 他の人形遣いの方をご存知なんですか?」


 昴のあっけらかんとした態度にやる気を損なったのか、溜め息を吐きながら本を閉じる。言いながらレイセスへの質問への回答。


「ええ、まあ……僕が知ってる人形遣いは彼だけですね。ただ変わり者なので話をした事もないというか……僕相手だとしても恐らく話はして貰えないでしょうね」


「変わり者、ですか……」


「嫌われてるんじゃね? まあ良いや、とりあえずその人の名前と、さっきの続きよろしく」


「……」


 あくまでもモルフォから聞き出せそうな事はモルフォから、という事らしい。再び短く溜め息を吐くと昴に向き直って説明を開始する。


「ええっと……厳密に言うと弱点である場所の名称は核。魔力を溜め込んでおいて、刻まれた行動を起こす為の回路、とでも言うべきかな。これが傷付いたりすると」


 握った拳を見せ、それを花のように開く。言葉にしなくてもこの行動で理解出来るだろうが、口を動かすのが優しさというものだろうか。


「行動は停止する。完全に破砕されていなければ修復は可能だよ」


「なるほどなぁ……分り易いっちゃ分り易いな」


 核とやらさえ壊す事が出来れば人形を倒す事が出来る。だが、その核とやらはいったいどこに取り付けられているのか。昴が対峙した人形は顔を破壊したら停止したが、他のはどうなのだろう。例えばセルディが剣を突き刺した人形、例えばケンディッツが力の限りに破壊した人形。


「位置を聞きたいんだね?」


 モルフォも察しが良く、昴の疑問点へと介入する。しかし、何故だか難しげな表情だ。


「そうだ。位置がわからなきゃどうしようもないだろ?」


「うーん……残念な事に核の場所はどこ、って決まってないんだよ。製造する時に設計の兼ね合いによって胸だったり頭だったり、それこそ足や肩だって可能性もあるんだ」


「なんだそれ……結局壊し尽くすしかないってか……」


「そうだね。そんな簡単に壊れたら人形なんて流行らないだろうさ」


「身も蓋もねえな……!」


 呆れ返る昴。椅子に大きく凭れ掛かり天井を仰ぐ。結局は完全破壊する事が近道である、という事を聞かされてしまった。これではほぼ無意味な時間ではないか。


「失敗したか……もう情報集めはほとんどいらねえかなぁ……」


「げ、元気だしてください……」


 まさに燃え尽きたのである。失策してしまった事により昴には疲労が襲い掛かってきているようだ。そんな昴を揺するレイセス。


「あの、モルフォさん、先程の知っていると言っていた人形遣いの方というのはどなたなのでしょうか」


 そんな状態の昴に代わってレイセスが聞く。

 なるべく普通の態度を取るように気を付けているのか、どこか余所余所しい態度のモルフォ。


「助けになるかどうかは定かじゃないですが……工学二科に所属している――」



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