第3話「人形の誇り」04

 先手を取られた自分に対しての怒りなのか、殴られた事への怒りなのか定かではないが、昴は確実に怒っていた。対峙する謎の人物に言葉を投げ付ける。


「おいお前! 何が目的なんだ!」


「……」


「やっぱり黙秘かよ……せっかく聞いてやったのに。しゃあないな、俺に喧嘩売ったっていう事実があるからな。見逃す訳にゃいかないんだよ。大人しく殴らせろ」


 警戒は怠らず背後に立つレイセスに頼む。あの技さえあればただの昴でもそれなりに渡り合う事が出来ると知った。それにほんの少しではあるが魔法についての知識も得たのだ。活用出来るかは知らないが。


「あの構いませんけど……またスバルが倒れたりしたら……」


「大丈夫。なんとなくわかったぜ、肉体強化ってのはある程度自分で操作出来るんだって。まあ出来るらしいってレベルなんだよなぁ……でもやらなきゃここは乗り切れないだろうし。頼むよ」


 遠くを見ながら言う昴。教科書から読み取っただけの文言だ。やはり自信はない。だがそれでもやらなければならない。自分一人だけの力ではこの世界の住人には遠く及びそうに無い――完全に及ばないとは言いたくないらしい――のだから。


「そこまで言うなら……私も力になります!」


 昴の背中に両手を添え、魔法の言葉を歌うように紡ぐ。どうやら魔法という得体の知れない力を発動する為に必要な古代語とやららしいのだが、さすがの昴でもそこまでは知識が追い着けそうになかったようだ。理解出来ない言葉の羅列が耳を抜ける。周囲を舞う光の粒子。

 敵は律儀にも待っていてくれている。意図はわからない。

 肩甲骨の辺りからじわじわと広がる熱源。全身を駆け巡る電撃。歯を食い縛らなければ弱音を吐いてしまいそうな痛みだ。だがそれでも昴は耐える。髪の毛の一本一本にまで力が漲ってくるような感触。


「親和性ってやつが高いのも考えものだよなあ……」


「これで、大丈夫でしょうか……? 以前のよりは抑えたつもりですが」


「おう、助かるぜ。なんとかやってみるよ」


「無理はしないでくださいね? でも援護はします!」


「わかってるって」


 体の中心に集まる熱。大きく深呼吸。未知の力を操作する、というのはまだまだ先になりそうだった。今はただこの感覚に慣れる必要がある。レイセスの力を借りるとなるとこれが最重要事項となるだろう。


「よし……っ行くぜ――」


 痛みを封じ込めるかの如く強く拳を握り再び敵を視界へと収める。

 何故か昴を襲って来ようとはせず、仮面の奥に闇を湛えながら棒立ち。

 昴はそれをいつでも掛かって来い、という意味で捉えたらしい。鋭く息を吐き地面を蹴り付け、得意のインファイトに持ち込むつもりだ。


「俺に喧嘩売った事、後悔させてやる!」

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