第2話「異世界での生活」37

 火花散る凄まじい剣劇。まるで映画のワンシーンを見ているかのような感覚に陥るが、これは現実だ。自分と近い年齢の少年が大振りの剣を容易く操り、時折蹴りや当身などを駆使しながら相手を倒そうとしている。

近付いて縄を掛けてやろうという考えだったが、これではどうする事も敵わない。入っていけば巻き込まれてしまう可能性の方が高いだろう。かと言ってこのまま踏み止まっているのは性に合わない。


「学生でこれ、なんだよな……剣闘会はどんな化け物が居るんだよ……」


 先が思いやられる。それで頂点を目指すなどと、どの口が言ったのか。兎も角、今はあの犯人を捕らえるのが先決だ。

 まるで決められた動きのように正確に刺突を繰り返す犯人にセルディも多少苦戦気味だった。単調な攻撃ではあるのだが、如何せん手数も多く、狙ってくる箇所はほぼ急所。目や胸、太腿など。確実に相手を仕留めようとしているのだ。自分を見た者への容赦は無い、という事だろうか。そこまで放火に執着している理由とは一体何なのか。

 しかし、そのような無駄の無い洗練された動きの中、僅かに開いた一瞬の隙。 柄を強く握り締め、渾身の力で横に軌跡を描く。

 上体を仰け反らせるだけでそれを回避し、その体勢から続けて後方に回転。何事も無かったかのように直立。


「お前……どこの生徒だ? その動き、下の奴でもないだろ。一科か二科、それで総合か戦闘か……! それとも……!」


 今の人間離れした挙動から察したのだ。束の間の休息を得る為に後方に下がるセルディ。

 向かい合う犯人は、これ程までに激しい衝突を繰り返しているというのに息も上がっていないようだった。

 破れた衣服やいつの間にか付いていた傷を気にしている暇などなく、再び剣を構える。


「チッ……答えろよ!」


 ふと、呼吸を整える為に目を閉じた瞬間の出来事だった。ただの一瞬で犯人が視界から消えていたのだ。気配はある。それも、近くに――

 気付くのが遅かった。死角に、完全に懐に入られている。この距離では腕を振ろうにも力が入らない。瞬きをしたほんの僅かな時間で距離を詰めたというのか。剣の腹をどうにか盾に出来れば。

 しかしその思考は適わず凄まじい音と共にセルディは吹き飛ばされ、転がってしまう。


「セルディ……!」


 何故だか分からないが体が動いてしまっていた。仲間意識というやつだろうか。せっかく持っていた縄も投げ捨て、犯人の背後から殴りかかろうとする昴。

 当然その動きに対処するべく犯人は振り向き、凶器を突きつけてくる。


(顔狙わないなんて、生易しい事やってらんねえよな……!)


 とにかく今は昏倒させてでもこの男の動きを止めなくては。初撃はどうにか、辛うじて回避する事が出来た。こうして刃物が自身の顔の横を通り過ぎるとひやりとするものがある。しかし怯えていては始まらない。顎にでも当ててやる、そう息巻いて。

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