第2話「異世界での生活」38
刃物を持った相手に立ち向かうなど今までの生活の中で考えた事があっただろうか。否、男子なら誰しもが一度はそういう“カッコイイ自分”とやらに憧れてしまってそういった恥ずかしくて誰にも言えない妄想をしてしまう事も可笑しい話ではないだろう。きっと。
それが昴本人にあったかどうかは定かではないが、現にこうして対峙しているのだ。
「刃物は人に向けるなって、小さい頃に習わなかったのか!?」
勢い良く飛び出してはみたものの、こうも的確に狙ってくる悪意ある攻撃へは対処が難しかった。更に昴はこの世界にずっと居た訳ではなく、本人が言う様に刃物という物は危険で、他人に向けて使う物ではないと幼少から常識として教わっているのだ。だからこそ、それに当たって傷を受けてしまうという恐怖が勝り、全身に冷たい汗を感じながら寸でのところを回避している。
「何か……言えよ、な!」
運動神経と体力には自信があった。しかし絶対に当たってはいけないという緊張感と痛みへの恐怖、相手の動きを見極めるために使っている集中力のせいで既に息が上がり始めている。
「このっ……!」
防戦一方では削りきられてしまう。そう判断した昴は意を決して後退から一転、左足を前に。伸びてきた右腕と凶器を苦痛に顔を歪ませながら逸らして懐へ。拳を固く握り、腰溜めに置く。相手が迫る勢いを活かし、更に自身の腕力も追加。それを腹部へと力の限り叩き込む。
感じる手応え。骨に響く衝撃。直撃した。痛みによってか一瞬動きを止める犯人。このまま崩れ落ちてくれれば、とも思ったが当然そのような事にはならず。
突き出された昴の腕を掴み、乱暴に投げ捨てる。
いとも容易く、しかも片手のみで投げられてしまい、柔らかめの地面を転がり、うつ伏せに。一体どれだけの腕力なのだろうか。
(なんだあいつ……障壁? ってのを殴った時よりも硬い……そういう魔法か? 俺投げられてばっかじゃないか……?)
倒れながらも思い出したのはフェノンの防御魔法に拳をぶつけた時の感触。あの時も確かに硬かったが、あれは衝撃を外に弾こうとする力に近かった。しかし今回は違う。完全に受け止めているのだ。だからこそこうして殴った拳が異様に痛む。まるで金属の塊を殴ったようで。
(だとしたら普通に殴っても突破は難しいよな……)
立ち上がり、動かない相手を睨みながら考える。
(セルディは……なんだあれ気絶でもしてんのかよ?)
先程吹き飛ばされたセルディに視線を投げてみたのだが、飛ばされ、倒れたまま動こうとはしない。まさかとは思うが意識がないのだろうか。
「それなら……おい、お前! 名前知らねえからこうやって呼ぶぞ! 聞こえるな?」
離れた相手にも聞こえるように大声で語りかける。
「何でこんな事してるんだよ? 嫌な事でもあったのか? それもかなり前から……言ってみろよ? 何か変わるかもしんねえだろ? 何の為に口付いてるんだよ!」
物理的な攻撃が通じないならば別の攻撃――基、口撃にシフトすれば良い。
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