第2話「異世界での生活」30
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退屈な授業と言うのはどうしてこうも眠気を誘うのか。今の昴には到底理解の及ばない遠い世界の話をしているようで、ちっとも吸収されない。
それでも仕方なく、文字を完璧にするために板書をし、それらに振り仮名を。内容など知った事ではない。しかしその退屈な時間ももう終わりだ。鐘が鳴り、教師が居なくなった教室はどこか活気を取り戻したかのように見える。
「っし……やっと終わったかあ……」
一日中座学ともなると背中が痛くなってくるのだ。伸びをすると至る所の骨が待ってましたと言わんばかりに声を出す。睡魔が何度かダメージの高い攻撃をしてきたが何とか乗り越え、今日だけでも相当数の文字を学習する事が出来たはずだ。部屋で復習にも時間を割きたいところだが、これからは資料棟まで移動する必要がある。
「それじゃ行くかー」
「はい! 場所は分かるんですか?」
「ああもうバッチリ頭に入ってるぜ。ここの外なら、な」
学院生活三日目にして昴の頭にはある程度の地図が書き込まれていた。それも昨晩立てた作戦のお陰ではあるのだが。勿論レイセスの方が中については詳しいので横に並んで着いて行く。
道中、友人と思しき生徒がレイセスへ挨拶をしているが、どうやらまだ昴にはなかなか近付けないようで声こそ掛けるのだが身を引いているような感覚を受けてしまう。
(当然っちゃ当然なんだろうけど……心地よくは無いんだよなぁ)
どちらかと言えば多くの人間と親しくして騒いでいたいのが昴の性格。出来る事なら友達を増やしたい。だがゆっくりと見極めるのも重要なのだ。特に自分の居た世界とは空気の色が違う。身の振り方、というものを考えなくては。それに年頃の女子がそうそう気安く話し掛けてくるものか、と改めて考え直す。勿論そういうものを気にしない人も居るだろうが。
*****
「結構遠かった気がするな」
「ここ、ですか?」
資料棟と教員棟に挟まれた、中庭のような死角。この夕暮れでも光は余り届いておらず、ひんやりとした空気と影が落ち込んでいる場所だ。
「そうそう。何でもここには古い情報がごろごろしてるらしいんだけどさ……俺には分からん」
腕を組み口をへの字に。自分でも理解したいのは山々なのだがこれだけの量を即座に判断するのはどうしても難しい。だからこそレイセスに力を借りたいのだ。
「こんな場所があるだなんて初めて知りました!」
「喜んで……る? まあそれなら良いんだけどさ。で、どう? ここにあるのはどんなのなんだ?」
「そうですね……」
レイセスは悩みながらもその山積みにされた書籍から一つを手に取る。埃塗れになっている表紙を優しく払い中身に目を通す。
「これは……」
「なんだ?」
「教科書ですね。恐らく戦闘学だと思うんですけど……少し年代が古いような気がします」
「あーそういうのか。新しくなったからいらないって感じなのかな」
少々期待外れだったが、ここには膨大な情報がある。そのどれもが不必要ではないはずだ。ただの一回で諦めるのも性に合わない。もう少しだけ粘ってみよう。
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