第2話「異世界での生活」29

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 ――翌朝。

 眩しい日差しを浴びながら、昴は眠そうに目を擦る。きっとこれが元居た世界の学校であるのなら、眠気に耐えられず机に突っ伏していたところだろうが今はそう出来ない理由がある。

学院内でも身分の高く、成績優秀な人間の集まる場所。そんな中で一人寝ているという状況はあまり、絶対に好ましくないだろうと判断してだ。

それにレイセスが親身になっているというのはつまり彼女に所縁のある人間だと認識されているはず。更に迷惑を掛けて困らせる訳にはいかない。その気持ちを強く保つ事でどうにか、こうして起きている事が出来ているのだ。


「スバル、なんだか眠そうですね」


「ん? あぁ……なかなか寝付けなくて」


 しかしそのような状態であるのは他人から見れば一目瞭然。睡魔と闘いながらも犯人確保の為の作戦や、これから始まる授業についてぼんやりとした頭でも思考するのは流石と言うべきか。


「あーそうだ。レイって資料棟行った事ある?」


「ありますけど……何だか埃っぽくてすぐに出ちゃいました」


「中だよな。うん、あそこは埃っぽいな。じゃあさ、その外に山積みにされてる本とかは知ってる?」


 昨晩見付けたエリア。あそこに置かれた資料は使い物になるのかどうか、それを判断して貰いたいのだ。今の自分では文字をゆっくり理解するのが精一杯で、そのような判断は不可能。掘り出し物があれば、という軽い気持ちだ。


「そんな物があるんですか?」


「そうなんだよ。俺だけじゃ分からない物が沢山あってな? だからレイの力を借りたいんだけど……」


「それなら喜んで! 私もスバルの力になりたいです!」


「お、おう……それは嬉しいな。ありがと」


 レイセスは他人に頼られるのが好きらしい。目を輝かせて昴の申し出を快諾。何やら楽しそうにしているのが隣に居ても良く分かる。だがこうして楽しそうに話しているとどこからか嫉妬らしき視線が注がれる訳で。

しかし昴はそのような事は気にしない。仲良くして何が悪いんだ、とでも言いたげであるのだが口は災いの元。言いたい事を全て口に出していたら一体どれだけの不毛な争いが生まれてしまう事か。言い伏せる事は出来ても実力行使ともなれば、昴の勝ち目は少ない――あくまでも無い、とは言わない――。


「でもスバル、どうしてそんな事を知っているんですか?」


「……偶然通り掛かったら見付けたんだ」


「本当ですか?」


「嘘ではないな」


 昨日の予定のルートでは資料棟付近の探索は無かったので言い方次第ではそれでも正しいのかもしれないが。レイセスに本当の事を言っても良いのだろうか、と。巻き込んでしまうのはどうなのかと思ってしまったのだ。


「それなら良いんですけど……無茶はしないようにお願いします」


「おう。それじゃあ授業が全部終わってからで良いかな?」


「分かりました。忘れないで下さいね?」


「当然だぜ」


 太陽光を浴びているせいか次第に眠気も消えている気がした。不思議と頭が冴えている。あそこで何らかの手掛かりを発見出来たのなら、また一歩進む事が出来るのだ。頭上では授業開始を伝える鐘が鳴り響く。教室に入って来たのは老齢の男性教師。教壇に立つと咳払いをしてからこう告げた。


「えー昨晩、どこかの生徒が二人外出していたと目撃があったそうで。えー……やむを得なく外に出る場合はしっかりと外出許可を貰うように。それでは授業を始めます。えー……」


 自分の事だ、と思ったがここで動揺してはいけない。あくまでも冷静に聞き流す。しかし、二人と言う細部まで漏れているとは学院の情報網恐るべし。


(許可取ってればそれなりに行動は許容される……はず? 大丈夫だよな……)


 少々不安ではあるが何事もやってみなくては。



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