第2話「異世界での生活」27

 続いて足を向けたのは資料棟の外周。教室のある棟や教員棟などに囲まれて死角になっている部分が多いようだ。しかもここには月や星の光もほとんど届かない。確かにこれならば犯行があったとしても発見には遅れが生じてしまうだろう。


「なんだこれ……こんなのやってくれって言ってるようなもんじゃないのか?」


 昴がそこで一番気にしているのは外だと言うのに至る所に積み上げられた書籍や紙の束。飛ばないようにと縄で縛ってあるが、わざわざ風に晒す必要性はどこにあるのだろうか。


「ここらにあるのは捨てる奴なんだってよ。古い情報はいらねえって事らしい」


「なるほどな……だけどこの中に入ってるのもあんまり使わないんだろ?」


「オレもほとんど見た事はねえから知らないんだけどな。必要になってくる技術は基本的には教科書に追加していく形だ」


「それであんなに厚いのもあるのか……納得」


 古いものは淘汰され、新しく塗り替えられていく。これはこの世界でも同じようだ。しかし古いものにもそれなりの良さがある。ここで昴が思い付いた。


(って事はここには古い魔法っていうやつもあるんだろうな……もし異世界を移動出来るっていう技がるなら……それはこの中に隠されてる可能性も、ある? 無きにしもーってやつか)


 昴の魔法知識などというものはあくまでもフィクション、幻想や創作の世界でのものではあるがその中でも“古い時代の魔法”というのはとてつもない力を有していたり、魔法というあり得ない事象を更に超越していたりしていた。調べてみるのも価値はあるだろう。勿論これは一人でどうにか出来る代物ではないので手を借りる必要があるが。


(朝になったらレイに聞いてみようかな。うん。そうしよう)


 壁際に沿うように積み上げられた束を叩きながら誰も居ない事を確認していく二人。さすがに連続で同じ場所へはやって来ないか。


「どうする? もう戻るか?」


「そうだな……さすがに同じ場所には来ねえよな。それにあんまり教員棟に近付くと面倒だし」


「見付かって犯人疑惑は困るわな」


「それだけじゃねえよ夜に出てる時点で捕まる」


 確かに昴の世界の時間でも夜中に歩いていれば警察に声を掛けられる事もあるだろう。それにここは学院の敷地内。ルールもここの中であればどこでも適用されるはずだ。


「よし、それじゃあ終わりって事で――」


「静かにしろ、隠れるぞ」


 いきなり口を塞がれ何事かと思ったがその理由もすぐに定かになる。積み上げられた書籍を軽く押し退けその後ろへ身を隠す。


「あっお前フード付きとかずりいなそれ……!」


「あ? 何だよただの布かよお前のは」


「こ、これしかなかったんだよ……」


 狭い空間にお互い肩をぶつけながらも、隙間から状況を覗く。すると次第に近付いて来る明かり。この世界には電力としてのランプなどは存在していない。これはきっと炎を灯しているのだ、と次第に理解していく昴。徐々に適応出来ている自分にほくそ笑む。


「おーい誰か居るのかー?」


 聞こえたのは野太い男の声。制服ではないし、顔立ちから見て教師だろう。見回りに来たという事だろうか。となると他の場所にも見回りが出て来たと考えるのが妥当なのかもしれない。


「どうする?」


「あいつが動いてから走る。しかねえだろ?」


「だよな……バラバラに動いた方が良いか?」


「そうすっか。ヘマして捕まるなよ?」


 小声での作戦会議。この建物に囲まれた空間では逃げ道は一つ。あの教師を振り切っての逃走しかない。


「なんだか走って、逃げて、ってのばっかだなぁ……」


 この世界に来て何度目だろうか。そこまで走る事が好きな訳ではないのだが、どうも縁があるらしい。

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