第2話「異世界での生活」23
「……何か聞いてるとさ」
椅子に深く腰掛け、腕を組んで話の行く末を見守っていた昴。ここでようやく発言をする。
「これ、俺には関係ない話じゃないのか?と言うかそもそもその事件が起きたのは一年も前の話なんだろ?その時は俺は居ないし、ここに関わりのある人間なんて居ない。居なくは無いけども。それにこの学院の中で起きたなら誰だって、この学院の中の誰かだって判明するもんだろ?」
「……確かにコイツは居なかったな。となるとやってないオレにも当然関係ない話だな」
「いやいやお前は容疑があるんだろ?」
「だからやってねえって! 教師連中が勝手に言ってるだけだっての」
テーブルを叩いて猛抗議するセルディを軽くあしらう昴だったが、別に昴自身がセルディを疑っている訳ではない。ただ、この場に呼ばれたという事に対してどういう理由があったのかを聞きたいのだ。
「最初は、外部の人間じゃないのかっていう推測だったんだよ」
カップの中に視線を落とし、思い出すように語る。
「ここは色んな権力の息が掛かってる子供たちが沢山居るからね。子供を使って恨みを晴らしてやろうっていう輩も少なくは無いはずだよ」
「そんなのお前くらいじゃねえの? オレには何もないぜ」
「それは……兄さんがこの学園に居るって知ってるのうちの家系の人間とその近辺だから……僕と比べたら絶対数が……」
「は? なんだそれ聞いた事ねえぞ?」
「黒いなぁ学院ってやつは」
一体セルディがどのような扱いを受けているのか甚だ疑問ではあるがここではそれよりもこの事件の方が問題だ。
「まあ置いといて。……その線で調べてたけど結局あれからは進展が無くてね。そして、昨晩。また起きたんだよ」
「小火事件が?」
「……そんなの気付かなかったけどな」
「真夜中に、しかも資料棟付近だから人も居ないしね。でも下手したら今回は小火じゃ済まなかった可能性もある」
資料棟といえば、昨日アイリスと登ったところである。確かに、あのように紙や書籍が積み重ねられた場所で小さなものでも出火があれば大惨事になっていただろう。昴の世界のように火災を報せてくれるような装置も無いだろうし、きっと警報なども手動で行われているはずだ。しかし被害を抑えるとなればやはり魔法を使うのだろうか。
「それで、最初に発見した教員が犯人らしき後姿を見たって言ってね……」
「なるほど。それが生徒だったって?」
「そういう事。生徒会は独自に調べるつもりだったけど、どうしても僕らだけで動いてたら目立っちゃうからね。そこで頼みたいんだよ、僕らの手伝いをね」
「……面白そうだけどやってオレに良い事はあるのかよ」
要するに犯人を捕らえろという事だったようだ。だが、それならもっと適任が居るのではないだろうかと昴は考える。だからこそメリットが欲しい。
「兄さんには……犯人捕まえたら今までの授業に出てない分をどうにか出来ないか交渉してみるっていうのは?」
「それと学食の追加分タダにしろ」
「貪欲だねえ……でも、やるんだったら、良いよ」
「よし。早速怪しい奴探してくるわ」
そう言ってセルディは本当に何の情報も無しに探しに出てしまったようだ。行動力は評価出来ると思うが、あまりにも無謀過ぎやしないだろうか。
「大丈夫かお前の兄貴……何も知らないだろ?」
「まあ兄さんは……どうにでもなるよ。そういう人だからね。そして君への報酬は、そうだね――」
「そいつは俺が提案する。レイの事を誰にも言うな。何でお前が知っているのか、それはこの際どうでも良い。レイは周りにばれたくないと思ってる。今後一切口にするなよ」
どさくさに紛れて失念していたが、昼の件もあった。あのような顔をさせないためにもここで案を出しておく昴。
「へえ……他人の心配?」
「大事なダチだからな。それを泣かすような真似は許さねえよ」
「分かった。それじゃあ犯人の特徴について教えていこうか……もう少し時間掛かるけど、良いかな」
無言で頷く昴。カップに手を伸ばそうと思ったが既に中身は空だった。なのでそのままクッキーを貪る。時間が掛かった場合を考えてここは少しでも腹を膨らませておこうという魂胆だ。
「まず、予想される得意魔法なんだけど――」
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