第2話「異世界での生活」24
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この世界の習慣に風呂というものがあって良かった、と昴は心から思う。昴の世界とほぼ同じである為使い方を聞かなくても分かるし、何よりも疲れた体には一番効くのだ。多少違っているのは液体の洗剤は存在せず固形石鹸であるという事。泡立てるのが少々面倒に感じてしまうがその内慣れるだろう。慣れてしまっても良いのだろうかという感覚もあるのだが。
「犯人捕まえろっても……厳しいわなぁ」
溜まったお湯に顔を沈め、息を吐き出す。確かにいくつかの情報を貰ったが得意魔法やら技能の予想を言われたとしてもそれをどう活かせば良いのか判断が出来ない。ただ傾向として寝静まった夜中にそのどれもが起こっているという事。
「となると場所を絞って探すのが手っ取り早い、か……?」
思考を巡らせる。闇雲に飛び出して探すのはむしろ効率が悪いのではないか。それに探そうとするのなら既にモルフォたちが手を付けているはず。更にこの学院の敷地は広大だ。地利の無い昴には不利、というものだろう。だが外に出て探す以外となれば――
「聞き込み? そんなの怪しまれるよなー。却下だ却下」
生徒たちに聞いて回るというのも一瞬考えたがそうなると犯人に勘付かれてしまう可能性があるし、何より昴は編入生だという事もあって行動が目立つ――噂があるというのは敢えて考えないようにしている――。下手に動くのも難しい。だがやはり、動くしかないのは確定だ。それも、闇に紛れて。
「うわぁ早速門限破ろうとしてるのか俺……脱出計画も立てないとなぁ……他にも、探すなら何かと調達しておかないと。まずはっと」
考えが漸く纏まってきた。やらなければならない事を即実行に。浴室から出るとざっくり体を拭き、用意されている服に着替える。頭にタオルを載せたまま部屋へ。やはり靴を履く生活は慣れないので素足のままだ。ドライヤーが無いのが玉に瑕である。
「なあなあカルムーこの学院の地図って持ってる?」
「地図? うん、あるけど……どうするの?」
カルムの机の上に並べられていたのは数枚の紙。きっと勉強中だったのだろう。その手を止め、引き出しを漁り目的の物を取り出す。
「んー……冒険する」
「それは唐突な……再来週には学内試験もあるのに……」
「……試験あんの?」
「聞いてないの!?」
昴の前に立ちはだかるのは犯人探しだけではなかった。学生としての本分である学業、しかもその試験だ。ゼロからどこまで底上げ出来るものなのか。受け取った地図を広げながらベッドに体を埋め込む。
「やべえ」
「総合学の試験は相当難しいって聞くけど……対策とか……」
「……やべえなそれ」
問題が増えた。処理が追い付かないかもしれない。落ち込んでいても時間は過ぎていく。立ち止まってはいられない。問題があるのなら一つ一つ駆除していけば良い。ただそれだけだ。まずは目先の目標。犯人探しだ。
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