第2話「異世界での生活」19
執事であるアレクに連れられて昴は二階へ。どうやらこの階にモルフォの部屋があるとの事らしい。城や寮と比べれば幾分質素な感じを受けるが、それでも至る所に飾られた絵画や石造などがこの家の豪華さを表しているようだった。
「何か部屋が少ないですね」
ふと気が付いた事を口に出してみる。昴の言うように廊下は細長く、この家自体も相当な大きさを持っているが、それにしては扉の数が少ない気がするのだ。一室が相当の広さであると考えればそれも納得出来る。しかしそうではない場合、どういうスペースの使い方をしているのか。
「ええ、そうでしょう。クレイ家がどういう家系か、先程も申しましたよね」
「あーはい。人形使いの家系だって聞きましたが……それが、何か?」
「人形には様々ありまして……製造技術や保管技術はほとんど口外されていません。国内でも重要な機密事項ですから」
前を歩くアレクが顔を見せる事なく説明を続ける。これを昴が理解出来ているかはともかく。
「私自身は触れた事がないので分かりませんが……居住者であるご兄弟と使用人たちの部屋以外は実験場になっているようです。それ故に広さが必要になっておるそうな」
「実験ね……」
昴が、当人以外が知らない実験と聞くと想像を絶する科学力を扱うようなイメージがあるが、この世界には電力を使うという技術は無いようだ。なので機械やコンピュータで制御して何かを生み出すようなものではないだろう。どちらかと言えば薬品がズラリと並んだようなものではないか。あくまでも想像なのだが。
「使用しているのはモルフォ様だけなのですがね……」
「ん? 家族の方は?」
「ご両親は領地に御住まいです。ここには、総勢ですと……」
薄い照明の灯る頭上を仰ぎ、記憶と照らし合わせているようだ。
「そうですね、十人と五体程度でしょうか」
「なる、ほど……」
やはりあくまでも人形は物であるという考え方をしているらしい。確かにあの無機質で感情の無さそうな姿を見せられてしまえばそういう物なのだ、と思えて来る。
「人形の方は実験段階で壊れてしまうものもあるようですから。増えたり減ったり、忙しいものです」
「そういうものですかね……」
何と言えばいいのだろう。昴にはこの『壊れたら新しくすれば良い』という感覚があまり好ましくなかったようだ。難しい顔をしている。背中を見せているアレクには勿論見えていない
そうこうしているとアレクが扉の前で立ち止まる。他の扉と同じように木製で至って平凡な見た目だ。ここがモルフォの部屋なのだろうか。
「モルフォ様、客人をお連れ致しました」
「はい、どうぞ」
「失礼致します」
ノックから扉を開けるまでの所作は完璧だ。さすがは執事。流れるような動作。
視界に飛び込んできたのはこれまた意外にも普通の部屋だった。むしろ昴の寮の部屋の方が豪華なのではないかと思えてしまうような。落ち着いた色合いの室内、整頓された本棚には何かは分からないが分厚い本が並び、何やらトロフィーのような物や賞状にも似た物が飾られている。一言で表現するのならこうなるだろう。
「ザ・優等生の部屋、だな……」
そんな呟きは誰にも聞き取られる事は無く。窓際で本を読んでいるモルフォがこちらに向かって微笑み掛けてきた。
「やあ良く来たね」
随分と明るく、楽しそうな声色だ。
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