第1話「パラレルワールド!?」38

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「それって……限りなく偶然の産物じゃないか?」


 出て来た豪華な料理に舌鼓を打ちながら昴は言う。レイセスの話からすると、異世界に“行けてしまった”のも、昴と出会ったのも偶然。そしてふと、疑問が生まれる。


「行きは分かったけど、帰りってどうしたんだ? その本があった訳じゃないんだろ? 少なくとも俺の記憶じゃ本は持ってなかったけど」


 そうなのだ。昴がレイセスを助け、家に招待し、眠りに就いてから起きるまでの間。その間に昴は異世界の移動を体験しているはずなのだ。

そもそも手にした本が発光して何らかの現象が起こるなどという事が未だに信じ切れていないのだが。


「あの、それが……」


 次に発せられる言葉はなんとなく分かっていた。


「私にも分からないのです……ただ、お礼がしたいなと思ったら、いつの間にか私の部屋で……」


「なるほど、そこから俺は爆睡していたんだな。寝心地良かったからなー」


 きっとレイセスは自分を責めているのだろう、と瞬時に感じ取った昴はすかさずフォローを入れる。もし、また泣かしてしまえばもっと面倒な事に巻き込まれてしまうだろう。今はヴァルゼが目の前に居るから弁護してくれるとは思っているが、それでもやはりフォローは大切だ。


(でもそうなるともしかして俺は帰り方が不明って事にならないか? ……まさかな……)


 嫌な不安が頭を過った。確かに“異世界”だなんてワードはとても魅力的で刺激的だ。しかし昴にも自分の世界、居場所がある。

きっと今の時点でもかなりの迷惑を掛けているはずなのだ。剣闘会とやらが終わり次第戻れなくてはならない。

そもそもそれがいつなのかも把握していない事にも気がついた。不明瞭な点が多い。


「どうした、顔色が良くないぞ?」


「……何か考え事でしょうか?」


「あ、あーなんでもないよ。腹がいっぱいで眠くなってきたってだけさ。それに一気に情報が流れ込んできたみたいで整理が追い付かなくてなー。頭がまだ鈍ってるっぽいぜ」


 自嘲気味に笑ってやり過ごす。あくまでも、ここでは心配をさせたくなかった。あちらでは騒動という程ではないだろうが、心配を掛けている人間が少なからず居る。だからこそ、今この場所では。


「それなら今日は早く休まれた方が良いですよね! せっかくお部屋の準備もしてもらってますし!」


「部屋……? 俺の?」


「さすがに、姫様のアイギアともあろう人間を適当な場所で寝泊りさせる訳にはいかないからな」


「おーマジか! もう牢屋ともおさらばだな!」


 まさか城に自分の部屋を用意をして貰えるとは思ってもいなかった昴はここに来てテンションが上がってしまう。我に返ると少し恥ずかしいもので、照れ隠しに咳払い。


「ま、まあそのなんだ。ありがたく使わせてもらうよ」


「どうぞお使いください! 案内も私がしますね!」


 世話好きなのか、レイセスは明らかに雑用と思われる事を買って出る。本来ならば一国の姫がやるような事ではないのだろう。しかしそれでも本人がそう決めたのならと、ヴァルゼも使用人たちも口を挟まなかった。


「では、今宵はこれで解散ですかな」


「そうですね。色々ありましたし……」


「ありすぎたなぁ……」


 レイセスが椅子から立つのを見て、ヴァルゼもそれに続く。しかし昴はと言うと。


「ご馳走様でした」


 珍しく両手を合わせて一言。その様子はどうやら異世界の人たちには不思議に思えたようで。


「あぁそういう習慣ないのね……これはあれだよ。作ってくれた人への感謝とかそういうあれだ。俺の世界では結構やるんだ」


「良い世界ですね。本当に」


「そうかー? 普通だって」


 そこでようやく昴も立ち上がり、二人に追い付く。自分の部屋がどのような物なのか、かなり楽しみなのである。

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