第1話「パラレルワールド!?」30
そこに到着し、扉からほんの少しだけ顔を覗かせた途端だ。気合いの入った声が昴たちを出迎えた。
「これは迫力満点だな……」
扉の向こうにあったのは広大な庭のような場所で、そこには鎧を着込んだ見るからに屈強な人間が所狭しと体を動かしている。
各々の手には剣や槍――模造品か本物かは判別出来ないが光沢は凄まじい――が握られており、どうやら模擬戦か何かを行っているみたいだ。
すると、その空間に来客があったことに即座に気付いたらしい大男が号令を掛ける。
「全員武器を降ろせぃ! ……姫様、何用でこちらに?」
強く一言掛けるだけで、その場の動の空気が一転して静の空気へと変わった。さすがは騎士団の団長だ。
「えっと、ただスバルを案内していたら着いてしまって……ついでになりますが訓練を見学させて頂けないかと」
「左様でございますか。それならば是非ともご覧になってください。彼らもその方が士気が上がるでしょうから」
王族の警護が役割の一つである彼等にとって、レイセスが自分たちの事を見に来てくれているのはとても喜ばしい事。自己の鍛錬にも精が出ると言うものだ。ヴァルゼが後ろを振り向かず手を動かすと急激に空気は熱を帯びる。再び鋭い声と武器同士がぶつかり合う音がその場に居る者たちを包み込む。
「全くわかりやすい連中だ……では姫様、ここでは土埃が舞うでしょう。少し歩きますがあちらに」
頭を下げつつ掌を向けた先にあるのは小屋のようだ。さすがに身分の高い人間を立ったままで居させるなど出来ないらしい――昴にはもちろんそんな事まで理解出来なかった――。
移動の最中、昴は横目に激しい訓練風景を映しながら無言でレイセスの後に続く。剣道や柔道などと言った武術は自分の居た世界でも何度か目にしてきたが、彼等のやっている物はそれを遥かに超えているように見えた。
重たそうな鎧を着込み、その身体で俊敏に相手の攻撃を避け、鍛え抜かれた腕力で手にした武器を振り回す。一進一退の攻防、とは正にこの事を言うのだろう、と男子ならではのワクワクとした高揚感が込み上げている昴だった。
そんな様子をあっさり見抜いたらしいヴァルゼ。
「ふむ……姫様、失礼ながらこちらの……スバルはどうも動きたい様子。宜しければ部下の一人と手合わせなどさせてみても?」
「ちょ……いきなり何を!? いやまあ確かに動きたいなあとは思ったよ? でもあれ見せられたらさすがに俺もボコボコにやられる気しかしないんだけど!?」
急遽出された提案に驚きを隠せない昴。先程までは正直機会があればそういう事もしてみたいとは思っていたが、こんな物を見せられてしまうとさすがに竦んでしまう。
「あ、それは私も是非見たいです!」
「何でそういう事言っちゃうかな……?」
「姫様がそう仰るならば。ですが少々準備が必要なので着きましたらお掛けになってお待ちください。私は部下を集めます故」
日焼けをした顔に深く刻まれるのは意地の悪そうな笑顔。それだけを残してヴァルゼは来た方向とは正反対へと歩き出す。
「マジか……掠っただけで吹っ飛びそう……」
「そう落ち込まないでくださいね。あれはヴァルゼ様の優しさですから」
「優しさ? 優しさ……うーん……?」
そうは言われてもあんなのに一撃入れられたら嫌だな、と思う気持ちが先行。かなり気が重かった。
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