第1話「パラレルワールド!?」29

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 時は遡り昨日――どうやらこの世界でも朝と夜という概念が存在しているらしく、正確な時間は把握出来ないが恐らく昨日という表現が当て嵌まるだろう。後から聞いた事だが、牢屋の中が昼夜変わらず明るいのは罪人の感覚を狂わせるためでもあったらしいが――。レイセスから城内を案内される事となった時の話である。


「こいつは一人で歩いたら確実に迷子だな……」


 ポケットに手を突っ込んだまま歩く昴は、長く続く広い廊下を見渡して嘆息していた。


「実は私も小さい頃からこの城に住んでいますがまだ覚えきれてなくて……恥ずかしい話ですけど」


「使う部屋の場所覚えるだけってのも大変だろうなぁ。全部覚えてる人っているのか?」


 歩きながら人差し指を頬に当てて考える仕草をするレイセス。昴はそのゆったりとした足取りに歩調を合わせつつも、自分の興味のある部分へと視線を動かす。


「あ! いますよ! 団長のヴァルゼ様が!」


「あーあの人なら確かに……」


 ふと思い返すあの大男。背中に身の丈程の巨大な剣を背負っている割にはどこか優しさを感じさせる雰囲気を持つ人物。


「なあ、そのヴァルゼさんはどこに居るんだ?せっかく出て来れたんだし話をしてみたいな」


「そう、ですね……この時間ですと騎士団の訓練の真っ最中だと思うので、行ってみますか? ちょっと遠いですよ?」


 くるりと反転し、小首を傾げ、上目遣い気味に聞かれると男としては少し照れてしまうがあくまでも何事も無かったように振る舞う。


「問題ないぜ。動かないと体が鈍っちまうからな」


 わざとらしく腕をぐるぐると回し、疲れていないアピール。事実疲れてはいないのだが、狭い牢屋では寝て起きて食べてだけの生活だった故、行動派の昴にしてみればこれだけ動いていないと本当に鈍ってしまうのだ。


「スバル、一つ聞きたいんですが……良いですか?」


「おう。答えられる範囲で何でも答えるぜ?」


「じゃあ――」


 何故か先程よりもキラキラとした両の瞳を向け、こう言った。


「――スバルは、何か武術をやっていたんですか? あの時の動きがどうしても忘れられなくて……!」


 あの時……きっとレイセスを助けた時の事だろう。脳内に朧気に駆け巡るのは過去の記憶。憧れから始め、予期せぬ事態で頓挫してしまったあの――


「まあ、な……とは言っても数年前の話だし。あれは体が覚えてた我流だよ。それに……」


 ……あんな荒っぽい武術があってたまるか、と続く言葉を飲み込み、頭を振って嫌な思い出も一緒に振り払う。


「極めちゃいないが、齧った程度ではない……かな。ただ本職でもないからちょっとだけ動けるって感じだ。もちろん本気で目指してた事もあるにはあるけども……つまり、他人よりかは運動が得意……自分で言うのもアレだけどなー」


 最後の方は投げやりだった。頷きながらもしっかりと昴の話を解釈しようとしているレイセスには悪いが、正直に全部は話せない。いや、話したくない。これは胸に仕舞っておくべき問題だ。


「何だか複雑ですけど……それでもスバルはそれが好きだというのは伝わりましたよ」


 にこやかに、やっていた事を褒められるのは素直に嬉しかった。


「……悪くない、な」


 先程よりも増してきた人々の声に自分の呟きと微かな笑みを隠し、消す。


「あそこですよ、ヴァルゼ様や騎士団の皆様が居る場所!」


 指差した先、そこは大勢の男たちが広々とした庭のような場に犇めき合う所だった。

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