第1話「パラレルワールド!?」31
ヴァルゼが戻って来るのは意外にも早かった。重そうな鎧を鳴らしながら、背後に部下を引き連れている。
「私が見るに、体格から相手を出来そうな人間を連れて来ました。武器も、この中から選んでくれても良い」
「だそうですよ?」
「……ホントにやるのかぁ……」
背後に立つ人間に視線を送って観察してみると、人数は五人。先程から見ていたのと同じように体格が素晴らしい。
毎日訓練に明け暮れているのか肌もこんがりと焼けているし、まさに屈強という言葉が似合う人達だ。確かに身長は近いのかもしれないが、明らかに筋肉の付き方が別次元。こんなのはさすがに……と溜め息を吐きながら更に視線を横へ。
すると、その中に一人だけ小柄な人を見つけた。この空間では異質な、見た目華奢で端正な顔立ち。
「ああ、彼か。彼は最近入団したばかりのアンドルシュ・サシャ。この騎士団では最年少の騎士だ」
紹介されたサシャは軽く一礼。そんな小柄な彼でも他の騎士と同じように凛とした強い眼光を湛えている。一瞬でもやれるかもしれない、と思ってしまったのが失礼だ。
「よし! 俺は自分の直感を信じるぜ……!」
しかし、ここは負けたくない一心で力強くサシャを指差す。せっかく体を動かすし、それに一対一ともなれば勝負だ。それならやはり勝ちたい。するとサシャは驚いたように目を丸くしたが即座にヴァルゼの方へ視線を向けた。
「と、申しておるが……どうだ、やってみるか?」
「ボクは一向に構いません。皆様の手前、上手くやれるか定かではありませんが……」
「ならば決定だな。では残りは場所の確保を頼もうか」
容姿に合った高めの綺麗な声で肯定。ここで嫌がられたらどうしようとも考えていた昴だったが、杞憂に終わったようだ。ホッと胸を撫で下ろすと、再びヴァルゼから声が掛かる。
「それで、武器はどうする? これまた身長に見合った物を勝手に選んだぞ」
「あー……武器、ねぇ……」
地面に並べられているのはまさしくファンタジー世界に相応しい、鈍色に輝きを放つ両刃の剣や小刀、柄の長い斧に鎚、槍。良くわからない小型の何かなどが整然と並べられている。そんな中、真っ先に昴が興味を示したのは細身の剣。手を伸ばし、柄を握り、持ち上げ――
「……いや、やっぱりこっちにしてみようかな?」
――られなかった。見た目で言えば重そうには見えないが、そんな事は無かった。昴の知識では、登場人物が軽々と振り回して使える物だと思っていたし、そこまでは出来ないにしろ使う事くらいは可能なのでは、と考えていたのだ。予想外過ぎて平静を保ちながら戻せたか不安が残る。
「しっかり模擬戦用に殺傷能力は省いてあるからどれでも問題は無いぞ。もちろん力任せに振り回せば怪我の一つや二つは覚悟だがな」
「怪我をしたら私が看病するので大丈夫ですよ!」
「そもそも怪我をする前提で話すのは止めてくれよ……」
不吉な事を言うヴァルゼとレイセスだが、昴としては嫌な事だ。顔をしかめてそう呟くが、綺麗に笑い飛ばされてしまった。
「んー……なあヴァルゼさん」
「何だ?」
「どうしても武器使わなきゃダメなのか? なんて言うか……イマイチ俺に合いそうなのが……」
最初は男心をくすぐられて格好良さを気にしてみたが、どれを触っても重い。昴程度の筋力では扱えそうに無いのだ。それこそ木製であろう棒であっても。
「それに、俺には最初から自信の持てる武器があるんでね」
そう。昴には重い武器を持てる程の力も無いし、そんな鍛え方もしていないが、唯一まともに使える物がある。
「それは何ですか? 魔導か何かでしょうか!」
目を輝かせて言うレイセスに首を横に振り、更に続けて話す。
「期待させて悪いけど、これだな。これしかねえ」
左掌に右拳を全力で打ち付け、不適に笑む。釣られてヴァルゼも豪快に笑い声を上げると、サシャに言葉を投げた。
「ガッハハハ! 拳か! そいつは確かに最大の武器だ! サシャ、面白い奴が初模擬戦で良かったな」
「……そのようですね」
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