第1話「パラレルワールド!?」16

*****



 さすがにと言うか、やはりこの広大な自然の中を徒歩で行く訳がなく――話によるとそんな事をしていたら丸三日以上は掛かるらしい――馬車に似た乗り物に乗せられる。

ならばこの乗り物は一体どれだけの速度を出すつもりなのかとも思ったが、口に出すのも億劫だ。


「……いやもう一々驚かねえよ? 謎の生物が車引っ張っていようが気にしないんだぜ?」


 振動も少なく乗り心地が良い。だが、気になってしまうのは引っ張っている生物だ。馬に見えなくも無いのだが、何かが根本的に違っていた。

見た目は馬だ。四足歩行で首と頭が長い。言われてみれば馬であるし、違うような生物にも感じる。原因はどこだろうか。


「あー……鬣か? 全身鬣みたいに毛だらけだからなのか?」


 どうやら昴には物凄く気になる存在のようだった。小窓の先、操縦者の前を歩く生物を注視。


「もしかしてホルセが気になりますか?」


 そんな昴の様子を見たレイセスが言葉を掛ける。


「そんな名前なのか……馬じゃねえのな」


「はい! あの動物はホルセと言って、この国で一番の駿足なんですよ! 馬も居ますが速度は全く違うんです」


「あんなモコモコしてんのにか……やるな……」


 毛むくじゃらの生物ホルセは、褒められているのが耳に入ったのか、上機嫌そうに尻尾を振り、速度を上げて風を切るように進む。

 それから昴は学院とやらに着くまでレイセスとこの世界で気になった物についてゆっくりと語り始めた。何だかんだでこうして二人で会話するのは初めてのような気がした。



*****



 もちろん分かりきっていた事であるし、もうくどいかもしれないが、今、昴は再び驚き――通り越して呆然――に頭を抱えていた。目の前には純白の城のような建造物。きっとこれが学院とやらだ。


「……」


「さあスバル、早く行きましょう? 学園長にはお話してありますから手続きもすぐ終わると思いますし」


「今更だけど、俺入学? いや途中からなら編入になるのか……? まあどっちでも良いかな」


 レイセスに手を引かれ、巨大な門を潜っていく。登校の時間帯なのか中に入ると当然ながら沢山の生徒から視線が向けられる。手を引かれている行為に対しての眼差しなのか、昴に対する好奇心なのかはわからないが良い心地はしなかった。

恐らくではあるが、赤や緑、黄色などといった奇抜な髪や目の色が原因なのではないかと思っている。昴の世界でも染めてる不自然な色でならそういう人間も居たが、ここの人々は自然と合っている。


「世界、ねえ……」


 頭に浮かんだ単語に少し違和感。自分の知っていた“世界”と、今見ている“世界”が別物であるということを改めて実感した。ぼーっとしながらレイセスの後を追う事体感で数分、次第に人の気配が無くなり、二人の足音だけがただ響く場所に。


「こっちはやたら静かな場所なんだな」


「ええ。こちらは管理塔と言って、教員の方々の塔で、用のない生徒は滅多に近寄らないんですよ」


「あー要するに職員室って感じのあれだな。職員室なんざ俺は好きじゃないが……何度お呼ばれしたことか……」


 分かり易く言うときっとそういう事なのだろう。そして更に進んで行くと一層豪華な扉が現れた。両脇には何やら人型の石像。


(趣味、悪いなぁ……)


 不気味に微笑む石像が二人を見下ろし――


『要件は何か?』


「はぁ!?」


――喋った。昴の耳がおかしくなければ、この石像は確かに言葉を口にしたのだ。人間の分かる言葉を。喋るだけなら良いのだが、目が血に染まったかのように赤く、鈍く輝く。


「えっと、スバルの……お話した編入生の手続きに来ました。通してくださいますか?」


『確認中……』


「何? 何これ喋ってるよ? ゴーレム的なのが喋ってるぜ? 会話出来るのかな? マジかよ……」


 怪訝そうにぶつぶつと独り言を発し始める昴とは対照的に、レイセスは何ら臆せずに石像に話し掛ける。すると、赤に染まっていた瞳が青に。許可が降りたという意味なのだろうか。


『入室を許可する』


「ありがとうございます。失礼します」


「こ、こんちはー」


 控えめに挨拶をし、扉の奥に足を踏み入れる昴。口にはしないが、正直なところ少しだけ怖気づいていたらしい。

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