第1話「パラレルワールド!?」11
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「ふぅ……――それじゃあ改めてなんだけどレイに質問。“ここ”について諸々の説明をしてもらってもいいかな? というかお願いします」
手に取るカップの中で揺れる透き通った茶色い液体。口に含むとほのかな甘みと酸味が口に広がり、乾いた喉を潤してくれる。
牢屋の物と比べるのはとてつもなくおこがましい行為だが、あの場所で出されていた物の何十倍も美味しい物で、昴は目を丸くした。
お茶の味、とやらは分からないが、それでも美味しいという感覚はある。端から見るとその姿はまるで一端の貴族である。なので下手に「美味い!」などと口に出して良いものかと考えてしまい、結局何も言わずに再びテーブルへ。
「はい、もちろんです! ……でも、何から話しましょうか?」
「まずは……そうだな。場所からがいいのかな。ほら、国? の名前とかそういう地名的な?」
「場所、ですか……わかりました。私の説明でわかってもらえると良いんですけど……」
慣れない食べ物に手を出そうかに迷いながらも、レイセスに質問をする。これが炭酸飲料やスナック菓子なら取りやすいのだが、と思いながら。
「この大陸は、『フェルミナス』と呼ばれています。リリス、地図を取ってくれますか?」
「はいお嬢様!」
壁に掛けられている地図を小走りで取りに行くリリスだったが、残念ながら身長が足りていない。仕方なく昴が手伝いに動く。
「あ、どうもすみません……」
「おう。高い所にある物とか重い物は気をつけないとな」
額縁にもそれなりの金が掛かっているのか、とても重たい。たかだか紙一枚にも相当使っていそうだ。
ゴトリ、と重厚な音を立てテーブルに置かれた地図。当然見た事の無い地形だ。大半が大陸で一続きになっているらしい。そしてそれを囲んでいるのは海、だろうか。
「ここが、私たちの居る王都、王都ガーエストですよ」
レイセスの指を滑らせるのがなかなか止まらない。恐らく国境や国土を示しているのだろうが。兎にも角にも大国であるというのが理解出来た。
「むー……なるほど。城って言われりゃ城の形だな。で、その他の記号が村や町って事だな? ……あとは色が塗られて無いのは別の国の領土っていう解釈で……まったくもってゲームだな」
「? げえむ、ですか? それは何でしょう? リリスは知ってますか?」
「いえ、知らないですね……」
ふるふると首を振るリリス。ここで昴は世界の違いを改めて実感。この反応ではテレビなども無さそうだ。どうやって情報収集をしているのだろう。
「ああアレだよ。娯楽の一種だと思ってくれれば大丈夫。というか流してくれてもいいのか……次は……何て言ったっけ? アから始まる……剣闘会をやるっていう……」
聞き慣れない単語だから仕方ない。最初の一文字を覚えていただけマシだろう。
「“アイギア”ですか?」
「ん、多分それだな。何なんだアイギアってのは」
「ええと……堅い絆で結ばれし、解ける事の無い契りの証。主の刃となり、盾となりて身を削り、その生を共に全うする。それが“アイギア”です!」
長ったらしく仰々しい文章を、目を輝かせて語るレイセスはまるで子供のようだ。確かに聞いていて格好良さは感じてしまったが。
「……つまりは、使い魔とか召喚獣とかの類だろうな。……合ってるかは知らんけど……」
対する昴は未だに信じ切れていないのか、今まで過ごして来た現実で物事を捉えてしまう。これを簡単に飲み干してしまったら、完全に戻れなくなるような不安感。しかし、レイセスを助けたいという正義感のような物もある。それと逃げたくないという闘争心のような物。
「乗り掛かった舟だし、降りるのも酷だよな……それが、剣闘会とやらが終わったら、少なからず俺は帰れるんだよな?」
「それは、もちろん! せっかくお礼がしたかったのに迷惑ばかり掛けてしまって……申し訳ないです……」
肩を竦めて言う彼女を見捨てる訳には行かない。そう心の奥から叫び声が。困っている人を見たら放っておけない性分なのだ。だからきっとここに居る。そういう役回りなのだ。
「……だったら最初から腹は決まってんじゃねえか……」
短く息を吐き、瞳をかっと開く。気合は十分だ。
「いいぜ、レイ。俺たちはその剣闘会とやらに出場する……そして、見返してやろうぜ? どうせやるなら頂点目指して全力でな!」
不敵に笑みを作り、開いた左手に右の拳をぶつけて乾いた音を響かせた。レイセスにはその姿がとても格好良く映ったらしく、再び目を輝かせているではないか。
「あ、ありがとうございますっ……」
「よかったですね、お嬢様! 心強い味方が出来て!」
無邪気にはしゃぐ二人を見て、ふと心中で思う。
(まさかだけど、人外生命体とドンパチする訳じゃねえよな……? こんな、嘘みたいな現実の中で……)
たった今気合を入れ直したばかりなのだが、急に心配になってきた。その予感は当たるのだろうか、それとも杞憂で終わるのか。それも気になるところだ。
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