第1話「パラレルワールド!?」12
*****
――翌日。
先日までの牢屋生活とは違い、とても寝心地の良いふかふかのベッドで――勿論レイセスとは別室で――眠りにつかせてもらった。自分がこのような物を使って良いものかとも考えたが、誘惑には勝てなかったようだ。お陰で疲労感もほとんど無い。
「しっかしまあ……寝床が違うだけでここまで体が軽くなるもんかねぇ。食事もやたら美味かったし。風呂も広いし。いやー風呂があって助かった」
独房で食わされていた飯なんかとは比べるのもおこがましいが、それぐらい贅沢そうな物が食卓には並んでいたのだ。食材名も、料理名も全く知らない物だと分かった途端、いきなり現実に引き戻されたのだが。
そしてこの世界にも入浴という文化はあるらしく、しっかりと使わせて貰った。わざわざ使用人を何人か付ける、などとも言われたのだが昴は全力で拒否――恥ずかしさ故である――。
特にこれと言った違いは無く銭湯のような巨大な湯船を独り占め状態で楽しめたようだった。大きな違いはシャワーが存在しなかった為何度か湯船からお湯を汲んで使った事だろうか。
「はぁ……とりあえず起きたは良いが、これからどうするべきか。選択肢としては三つ」
まず頭に浮かんだのは二度寝。こんなに気持ちの良いベッドなのだから、またすぐに眠れるだろうという考え。
次に筋トレ。ある程度の筋力維持は必要だと思っているのだが、体を動かす気にはならないから却下。ここ数日の牢屋生活で体が鈍っているような気がしないでもないが。
最後はうろつく、徘徊。昨日、レイセスやリリスに連れられて色々城内を案内して貰ったが、未だに覚えられる気がしない。そもそも一回で覚えるだなんて不可能な広さだったのだ。
「うーむ……最後のは迷ったらそこで試合終了だし、また厄介事に巻き込まれそうだし……無難に最初のを選ぶとすっかな。予定がないなら寝ちまっても怒られないだろ」
立ち上がって伸ばしていた体をそのまま後方へ倒す。柔らかく、肌触りの良いベッドが昴の体を包み込む。
「やっぱりこの感触は物凄く楽しいな……! ふふ、ははは……!」
壊れた。その表現が一番相応しいだろう。それ程の感触を持ち合わせているベッド、と考えるのが無難だ。しかし、この光景を見た者は引いてしまうのではないかと思い至り、上体を起こす。誰にも見られてない事を確認し、再び溜め息。
「何、やってんだろう、俺……今確実に壊れてたわ……止めよう。三番の選択肢にチェンジしなきゃ……」
このままの状態に危険性を感じ、足で反動を付けてベッドから抜け出る。適当に城内をうろつく事に。今度は何も起こらないように、と祈りながらの出動である。
*****
「やっぱり広いよなぁ……さすがは城だよ」
ウロウロと、道なりに、行き当たりばったりで進んでいく。そんな無謀な事をしていれば“こう”なる事は予測が出来たはずなのに。何故止めなかったのか。
「さて、迷ったぞ」
上を向いて歩いていたのは良いが、完全に迷子だ。どこをどう曲がってここまで辿り着いたのかも記憶にない。階段も上ったような気がするが、その階段はどこだろうか。
「……ええい、こうなったら誰かに会って道を聞くしかないか。不本意だけど」
更に歩いていくと目の前には質素な扉が。木製で出来ているようだ。昴の頭には一抹の不安、下手に入ってまた捕まるんじゃないかと、過ぎったが、ここでずっと迷子というのも恥ずかしいので、勇気を振り絞って扉に手を掛けた。そして道場破りをするかのように勢い良く、押し開ける。誰か中に居ると良いのだが。
「あ、ちょっと力みすぎたかな?」
木が軋む音を響かせながら開かれたその先に広がるのは眩い光の差し込むとある一室。昴の知っている言葉で表現するなら、教会だ。ただ、十字架や像やステンドグラスなどが無いだけで、長椅子などは知識で知っている教会そのもの。
「どうしたんだい? 今は説教の時刻でもないのに」
光の中心、投げられたのは中性的な低めの声だ。きっと神父か何かなのだろうが、昴には到底わかるはずもない。
「実は、その……冒険心に火が付いたは良いけど、道に迷ってしまって」
「まさに迷える子羊という訳だね。それを導くのが仕事だし。それじゃあ……君はそこで立って目を閉じるんだ」
「あぁはい……ん? 別に信者でもなんでもないけど……いっか」
昴は訳もわからず、言われた通りに目を閉じる。
「また今度、会おうね。モロボシ」
「……!?」
パチン、と乾いた音が耳に入ったと思えば、昴の体は急激な浮遊感を覚えた。異変に気付き目を開こうとするが、開かない。
「今は君との接触は必要ないんだよ」
――暗転、そして……。
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