恐怖の描写

 死をその腕にぶらさげて、告知人はひたひたと近付いてくるのだろう。

 おおよそその死に確定と呼べるものはなく、さりとて気紛れに決められたものでもなし。

 ひたひたと、静けさの中に確実な足音を忍ばせて、こちらだけを一点に目指している。

 逃げても逃げてもゆっくりと追いすがってくるその足取りをただ怯え、後ろを振り向いては距離を確かめまた逃げる。

 いつまで続くか、およそ死ぬまで。

 足跡はどこまでも追ってくる、ただ一人の親愛なる者へ向けた眼差しに似ている。

 優しく見つめ、懐かしき微笑を湛え、穏やかな足取りで追ってくる。

 追い立てられる者は、走り、息切れし、疲れ、歩き、足を休ませ、そして止まる。

 人生は、死に追われて始まり終わる。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る