第11話

 創一たちの後方。


 ビルの陰から上半身だけを出して、下から順に心陽、昴、賢治、陽太が固まって、創一と繭羽の様子を観察していた。


「あっ、二人とも横断歩道を渡った」


「今度はどこへ行くんだろう……と言うか、春日さん。なんで風紀委員の君まで、僕らと同じように隠れているのさ。直接行って、早く帰るよう促して来ればいいじゃないか」


「いえ、そうもいかないわ。もしかしたら、単に創ちゃんが神代さんに街を案内しているだけかもしれないもの。二人が確実にデート目的で道草を食っている証拠を掴むまで、迂闊に出ていくことは出来ないわ」


「確実なデートの証拠は傍目(はため)には分からないと思うけどなぁ……。それって、単にこのまま二人の様子を観察したい方便なんじゃない?」


「あ、二人の姿を見失っちゃう! 追いかけるわよ!」


 心陽はビルの陰から跳び出すと、足早に創一と繭羽の後を追って行った。


「……なんだかんだ言って、春日さんが一番乗り気なんじゃないかな……」


 賢治は心陽の後ろ姿を見てぼやく。


「まあまあ、別にいいじゃないか。面白そうなことに変わりはないからな。……おっと、衝撃写真を撮れるように携帯のカメラを起動しておかないとな」


「なんかさ、俺、急に彼女が欲しくなってきた。俺も創一みたいに女の子を連れてデートしたいぞ……!」


 昴はパパラッチ根性をたくましくさせて携帯電話のカメラモードを起動している。一方、陽太は夏休みに入る前にどうにか彼女を作ろうと打ち震えていた。


「……って、そんなことをしている間に、僕たちも創一たちを見失いそうになってるぞ。すぐに後を追おう」


「おう。急ぐぞ、決定的な瞬間を見逃しちまうかもしれん!」


「ああ。後学の為に、創一と神代さんの男女交流をしかとこの目に焼き付けないとな!」


 三人はビルの陰から出ると、茜色に変わりつつある街並みの中を駆け抜けて行く。


「……ウマそうな、ニオい」


 心陽達の隠れていた路地の奥で、コートを羽織った人影が密かに動く。


 その人影は、少しの間だけ路地の出口の方を見詰めた後、路地の闇に溶けるように立ち去った。

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