江戸時代の仮名草子「一休咄」を、思い切りお下劣な方向へアレンジした連作短編集です。
この小説はずば抜けたお下劣性に加え、様々な属性を付加させることで、
多くの読者を魅了しているように思われます。
まず、主人公が小坊主つまり少年であることから、ショタコン読者にはたまらない一品となるでしょう。
さらに登場人物は、ほとんど男です。兄弟子、和尚、将軍、商人、
これらの男たちによって美少年である小坊主は否応なくイカされ、
読者はそのイキざまを繰り返し味わうことになります。
男によってイカされ続ける美少年を愛でる……明らかにBLです。腐女子の方にはたまらない一品となるでしょう。
しかし、この小説の深淵には日本人の根幹に関わるモノが潜んでいます。
稚児物語という属性です。
僧と稚児の男色を描いた物語で有名なのは、御伽草子にも収録されている「秋夜長物語」でしょうか。
比叡山の僧と三井寺の稚児のイケナイ關係。契りを結ぶことで悟りに達する僧、桂海。
イクことで賢者タイムを迎えるイックーさんと同じ香りがするのであります。
御伽草子の他の話、浦島太郎や一寸法師は我々の意識に深く根差しています。
ならば、この秋夜長物語とて我々日本人の根幹を成す物語のひとつのはず、
そして、その物語と同じ香りがするイックーさんが日本人に愛されないはずがない、
このように私は考えるのであります。
更に作者の周到な点は、稚児をイカせる側にしたことです。
本来、稚児の役目は相手をイカせること。なのに、この小説では稚児役のイックーさんがイカされてしまいます。
一休咄の面白味は、自分よりも立場が強い相手、つまり和尚、将軍、商人をやり込めることにあります。
無理難題を出され、知恵を絞り、無事解決。それはそれで溜飲が下がります。
しかし、無理難題を出され、その上、イカされてしまったとしたらどうでしょう。
主人公の危機感は数倍に膨れ上がります。絶体絶命敗北必至です。手に握る汗も倍くらいになります。
そして迎える賢者タイム、知恵を出し無事解決。まるでイッたが如き清々しさを読者は感じます。
主人公をイク設定にすることで危機感を増幅させ、その後の満足感も増大させる、
作者の心憎いまでの演出と言えましょう。
どんなにイカされようと決して挫けてはいけない、
何度イキ果てようと、命果てるまで諦めてはいけない、
そんな力強いメッセージを我々に与えてくれるイックーさん。
是非一度ご賞味くださいませ。