第31話 アクメ指南の咄
アンッコク寺の小坊主に、
年長組の一人であり、責任感が強く真面目な性格で、敏感な問題もすっぽりと包み込むような包容力がある青年でな。
この法茎、酒も博打もやらないが、手習い事に精を出しており、書や俳句、絵画などはむろんのこと、料理から武術に至るまで、およそあらゆることに手をつけておった。それでいて不器用で、何一つ身になっておらんかったそうな。下手の横好きというやつじゃな。
さて、ある夏の昼下がり、イックーさんが自室でのんびりシテおると、イキなり戸が開かれた。
「おーい、イックー!」
「ンオアァッ!?」
イキかけてしもうた……
「ほ、法茎さん! 何か御用ですか?」
「今日おまえさん非番だろう? 暇ならちょいと都まで付き合っておくれ」
「え、どこに行くんです?」
「新しい手習いに行こうと思うんだが、一人では心細いものでね、一緒に来てくれないか」
「えー……」
せっかくの休みの日だというのに? あからさまに顔をしかめるイックーさんに、法茎は苦笑した。
「そうイヤそうな顔しなさんな。イックーも興味がありそうな内容だぞ」
「どんなあ?」
あまり期待せずに尋ね返せば、
「看板には、アクメ指南と書いてあった」
「ンッハァ!?」
イキかけた……
「そ、そんなの、人に習うようなものではないでしょう! 絶対に怪しいですよ!」
「わからんぞ、わざわざ看板まで出して教えようというのだから、これぞ達人技というようなアクメを教えてもらえるかもしれん。どうだ、気にならないか?」
「うーん、まあ確かに、少しは……」
「そうだろう! イッてみようじゃないか、ほらほら!」
「しょうがないですねえ」
そんな調子で、二人で都にイクことになったわけじゃ。
くだんの手習い所は、市井の片隅にひっそりと勃っておった。ただの民家にしか見えぬが、確かにアクメ指南所との看板が掛かっておる。
これはいかがわしい。
「──ごめんくださいまし!」
玄関で法茎が呼ばわれば、奥から頭の禿げ上がった中年男が出てきた。
「へえ、なんでござんしょう?」
「表の看板を見て参ったのですが、是非ご指南頂きたく」
「おやまあ、入門希望ですか! お坊さんと見て、てっきり托鉢かと思いましたよ……」
男は嬉しげに微笑むと、二人を手招きした。
「どうぞお入りくだされ、私が師匠です。早速始めましょう」
「ほう、貴方が! なるほど、男性ホルモンのたくましそうな頭をなさっておられる」
法茎が言うのに、イックーさんは慌ててイッた。
「あの、わたしはただの付き添いでして……見学させていただいても?」
「構いませんよ、体験入学ということで。ささ、お上がんなさい、お上がんなさい」
二人を奥の間へと招き入れると、アクメの師匠は講釈を始めた。
「普段皆さまがやっておられるアクメというのは、これは駄アクメと呼ばれるべきものです。アクメとは本来恥ずかしいものだが、これを芸の域にまで昇華するところに、この道の面白味がございます」
うさん臭い……とイックーさんは思ったが、
「はァ、ナルほど」
法茎はいたく感心している様子。
「ではまず、初歩である四季のアクメのうち、最も簡単な夏のアクメをやってみましょう。季節も丁度いい。
アクメの師匠は身体を前後に揺すり始めた。
「おーい船頭さん、そろそろ岸に付けとくれ……アンッ、船もいいが、一日中船縁に座っていると、角っこの部分が股間にこすれてなんとも……ンッ……お、船頭さん、竿づかいが荒すぎる、もうちょっと優しくコイどくれ、さもないと、オッ……オッア、だめ……もっと、ン゛ッアアアァァッ!」
アクメの師匠は、イッた……
「……ふう。とまあ、こんな具合にね」
「なんと、
目を輝かせる法茎。
「では、試しにヤッてみてください」
「え、イキなりですか!?」
「こういうのはヤリながら覚えるものです。さあ、どうぞ」
法茎は咳払いをし、
「え、ええ、では一つ……ええっと、ゆらゆらとした風情で……お、おーい、船頭さん、そろそろ岸に着けとくれ、船もいいが、一日中座っていると、角っこの部分がこすれて……アッ、アッ、もっと優しく……フォーッ!」
アクメの師匠は、眉間にしわを寄せて首を振った。
「イケませんなあ。全然イケてない」
「え……」
「なにがフォーですか、ハードゲイでもあるまいに。そういう小ネタはいいんですよ、真面目にヤッてください」
手厳しい。
「すみません……」
「もう一度です、ほらヤッて」
「はあ、ええと……おーい船頭さん、そろそろ岸に着けとくれ、角っこの部分が股間にこすれてウッヒイイィ!」
「うーむ、早いのはイイんですが、不自然ですね。そんなイキなりイク者はおりませんよ」
「いやあ、なかなかどうして、アクメも難しいものだ……」
「不器用な方ですなあ。ムイてないのではありませんか?」
「し、し、失礼な! ムケてますよ!」
「そうですか? まあ、そうおっしゃるなら続けましょう。こうです、よく見て、ンッ……あ、ダメ、もう……も、もう……ンッウアァァーッ!」
「ア、モウ、こすれ……ンヒイイィィィッ!」
「……う、ううぅ、ウウゥ」
……おや? アク戦苦闘する法茎を見守っているイックーさんが、細かく痙攣し始めておるではないか。いったいどうしたというのか……
ハッ!? まさかこれは……もらいアクメ?
皆さまも、隣の人がアクメをしていると、つい自分もアクメを漏らしてしまうことがあるじゃろう? そう、アクメは伝染するのじゃ。
他ならぬイックーさんのこと、もらいアクメも人一倍よ。
「──ンぬッッッホオオオォォ!」
「モウラメエェェェーッ!」
奇声を発し続ける二人に、イックーさんはとうとう辛抱たまらず、
「んっ……あ……あ、だっちょ……ま……アッアヒイイイィィィッホオオオオオォォォォォォングウウッアアアアアアァァンァッ!」
激しくイッたのじゃ……
「あ、う……ヒ……ぐ、うう……ウぁん……」
余韻に身を震わせるイックーさんを見て、アクメの師匠は手を叩いて言った。
「お、おお! お連れさんはお上手だ! アク免許皆伝!」
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