第17話 ヴーの咄
「イックーどの、イックーどのォ!」
シンえもんが何食わぬ顔でアンッコク寺にやってきたので、イックーさんは部屋にこもって返事をしなかった。
この前、将軍さまに騙されたことは忘れておらぬ。
「……イックーどの? おらぬ?」
シンえもんの気配が部屋の前まで来おった。
少しはこりてくださいと思って、そのまましばらく黙っていると、
「ン゛オ゛お゛!」
イックーさんは慌てて廊下に出た。
「なにしてるんです!」
中腰になっていたシンえもんは、慌てて立ち上がりながら、
「お、おおイックーどの! いや……別に何もしてござらぬ! イックーどのが留守のうちに大きな便りを出そうなどとは、まったく思っておらんでござるぞ!」
うたがわしい。
「まったく……何の用ですか? 金カク寺にはイキませんよ」
イックーさんが溜息混じりに言えば、シンえもんは苦笑した。
「将軍さまも嫌われたものでござるな……」
「当たり前です! あの方に付き合っていてはせいしに関わりますからね!」
「あの方はあの方なりに、イックーどのをお慕いしておられるのではござらんかな……」
「えー、からかわれているだけですよ」
「ふ、ふ……まあ、よいでござる。拙者、今日は将軍さまのおつかいではなく、個人的な用事で来たんでござるよ」
「なんですか?」
シンえもんはイックーさんに顔を寄せ、ヒソヒソと言った。
「
「イキます!」
即答しおった。イックーさんの辞書に、こりるという言葉はないのじゃ。
さっそく二人で向かってみれば、亀頭屋の前は黒山の人だかり。
「おい、TENGUを三本くれ、早く!」
「こっちは
「最新型の
旺盛なことよな。
「うわあ、凄い人ですね……」
「のんびり買い物はできなさそうでござるな……」
イックーさんとシンえもんが途方に暮れて呟いたとき、店頭に出ていた亀頭屋さんが二人に気付いた。
「これはこれは、イックーさんにシンえもんさん、ようこそおいで下さいました」
「あ、どうも……」
イックーさんが会釈をしたとき、子供向けではないおもちゃに夢中だった人々が一斉に振り向いた。
「なに、イックーさんだと?」
「あのイキ神様の?」
「えっ……!」
熱っぽい視線が集まり、イックーさんはたじろいだ。わざわざ亀頭屋に卑猥なものを買いに来るほどその手のことに熱心な人々の間では、イックーさんの名は今やかなり広まってきつつあった。
「本物だ! 本物のイックーさんだ!」
「おお、なんと神々しい!」
「ありがたや、ありがたや……」
拝んでいる人までいる。
「え、いや、あの……わたしはただイキやすいだけの小坊主です、ちょっと、やめてください……!」
「ほっほっほ、大した評判ですな……」
亀頭屋さんが尋ねてくる。
「ところで、今日は何をお求めで?」
「え? いや、特にこれといった目的はなくて、安売りだと言うので……」
「なるほど、でしたら面白いモノがございますぞ」
「おや、なんです?」
興味を示すイックーさんに、亀頭屋さんは一瞬ニヤリと笑うと、店の奥からとんでもないモノを持ってきた。
「アッヒ!?」
それを見た瞬間、イックーさんはイキかけてしもうた……それは、今まで見たこともないほど大きく、太く、長いモノだった。暴力的なまでの巨大さに、客たちから悲鳴とも歓声ともつかない声が上がる。
「これぞ亀頭屋謹製特大バイブレーター、名付けて
亀頭屋さんが自慢げに言った。
「な、なんという大きさでござるか……!」
「ほっほっほ、ただ大きいだけではありませんぞ? 御覧なされ!」
シンえもんが目を丸くするのに、亀頭屋は穴根打のスイッチを入れた……ヴー!
「オホオオォッ!?」
イックーさんは、またイキかけてしもうた……
その動きの激しいことといったらなかった。かんしゃくを起こした龍の如く暴れ回り、亀頭屋さんが取り落としそうになっている。あんなものを一度使えば、もう二度と人並みの生活はできないであろう。
亀頭屋さんは難儀しながらスイッチを切り、
「おっとっと……まあ本来はチン列用のモノですが、しかし……イックーさんならば使えるのではありませんかな?」
「えっ!? いや、そんな、無理……」
言い掛けたイックーさんの言葉を掻き消すように、亀頭屋さんは客たちへと声を大にして言った。
「イックーさんならイケると思いませんか、ねえ皆さん!」
客たちは目を輝かせた。
「当たり前だ!」
「イックーさんならイケる!」
「二本だっていけらあ!」
亀頭屋さんはニヤリと笑った。この卑猥な頭の商人は、隙あらばイックーさんを貶めようとしてくる、本当に卑しい男よ。
「さあイックーさん、どうぞどうぞ。よもやできぬとは言いますまいな?」
「う、うぅ……!」
あぶら汗をにじませるイックーさんへと、客たちが囃し立ててくる。
「是非見せてくれ、あんたの雄姿を!」
「俺たちに勇気ってやつを教えてくれないか!」
「う、ううぅ……ううぅぅ……ウッアアッグァァーッ!」
イックーさんはわなわなと震えていたが、突如、背筋を反らせて白目をムイた。
シンえもんが目を見張る。
「あっ、まさか……!」
そう、イッたのじゃ……イックーさんは過度なストレスがかかると、イッてしまう。そしてひとたびイケば……賢者、降臨。
「……フゥ、いいでしょう。亀頭屋さん、貸してください」
「えっ……!」
今度は亀頭屋さんがたじろぐ番だった。こんなモノを使ってはただではすまないことはわかっている。できないと言わせて、ちょっと恥をかかせたかっただけだったのに……その後の人生を奪う覚悟などなかった……
「よ、よろしいのですか? こんなモノを……」
「早く」
まさか、そんな……唖然とする亀頭屋から穴根打を受け取ると、イックーさんはスイッチを入れた……ヴー!
「では、いざこれを……おっと! あっ……っとと!」
穴根打は激しくのたうち回り、手から逃れようとする。それを押さえようとすると、また手からヌルヌルと出て行ってしまう……
「おっとっと、おっとっと……あ、っく、こいつ……!」
イックーさんは、暴れる穴根打を押さえようとして、ついに走り出してしまった。唖然としている亀頭屋と客たちを後に残して……つまり、上手いことその場から逃げおおせたわけじゃ。これぞ賢者の知恵よ。
「っとっとっと、おっとっと、こいつ……おっとっと、おっとっと……!」
ヴヴヴーヴ、ヴヴ……ヴヴヴ、ヴヴヴヴヴ……
「い、イックーどの、何処にイクでござるか?」
シンえもんが慌てて尋ねるのに、イックーさんは悪戯な笑みを見せて言った。
「バイブにきいてください!」
ヴー!
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