第15話 とらいアスろんの咄

 将軍さまが新しい春画を手に入れたから来いと言うので、イックーさんはホイホイと金カク寺に向かったそうな。将軍さまとは趣味が合わないところはあるが、見せてくれるとあらば期待せずにはおれぬのが人というもの。

 イックーさんが顔を見せると、将軍さまはたいそう喜んだ様子で足の匂いを嗅いだ。

「おおイックー、よう来た! クンカクンカ!」

「春画はどこです!」

 挨拶もそこそこに切り出したイックーさんに、将軍さまは真顔で言い放った。

「そんなものはない」

「えっ!」

「今日はおぬしに、ちょっとした頼みごとがあってのう。普通に呼んだのでは、おぬしはなかなか来んからな」

「なっ……じゃあ、釣りですか、これは! わたしは釣られたということですか!」

「ぷげらぷげら」

「な、なんという……なんということをっ……!」

 イックーさんは激しく憤慨した。

「みだらなことで人を釣るなんて最低です! 最低の行為です! 仏罰がくだりますよ! 最低!」

「まあまあイックーどの、ちょっとしたお茶目でござろう……」

 シンえもんがいさめる。

「くそったれ!」

「クンカクンカ……そうイキりたつな。おぬしにとっても、悪い話ではないぞ?」

「なんですか、もう……」

 将軍さまは足の指でイックーさんを指差し、

「イックーよ……おぬし、夢漏町むろまちとらいアスろんに出場せい!」

「ンッ!?」

 イキかけたわい……

「な、なんですか、それは!」

 山寺で育ったイックーさんは、世俗のことにあまり詳しゅうない。

「なんだ、知らんのか……おい、シンえもん」

「はっ!」

 将軍さまの目配せを受け、シンえもんが説明した。

 とらいアスろん……それは南蛮渡来なんばんとらいの、アスの強さを競い合う競技のこと。アスにおもりを入れたまま走り、泳ぎ、最後にはアスで牛車ぎっしゃをひいて順位を争う、過酷きわまりないレースだそうな。

 正気の沙汰ではないわ。

「なぜわたしが、そんなおぞましい行事に!」

「クンカクンカ、おぬしなら、さぞ見事にイクであろう? わしはそれが見たい」

「いやですよ、帰ります!」

 イックーさんがきびすを返したとき、将軍さまはイッた。

「優勝賞品は亀頭屋きとうやの新作だぞ?」

 ……ぴたり、イックーさんの足が止まった。

 亀頭屋の新作と言えば、夢漏町に生きる者なら誰もが欲しがるもの……イックーさんとてそう聞けば、期待でふくらんでしまう。

「……もう、それを早くイッてくださいよ」

 こうして、まんまと将軍さまの思惑に乗せられ、とらいアスろんに出場することになってしもうたわけじゃ。

 哀れなことよな。

 さて、そんなことがあって大会当日。暑い日だったが、会場となる美輪びわ湖の湖畔は大勢の観客でにぎわっておった。皆、夢漏町で一番のアスの持ち主が見とうてたまらぬ。

 午前中に予選が行われた。競技は綱引きで、互いに背を向けちからを振り絞って綱を引き、先に抜けた方の負けとなる……

 ──ズポンッ!

「ンッホオオオォォォ!」

 ──ズポンッ!

「アッヒイイイィィーッ!」

 地獄絵図じゃな。

「は、ハァッ……はぁ、ンッ……」

 イックーさんは予選だけでヘトヘトに疲れてしもうた。イキやすいという体質は、この競技ではハンデにしかならぬ。しかしそんな状態でも、見事、夢漏町中から集まった猛者たちを押しのけ、本戦出場の切符を手に入れた。

 イックーさんのアスをなめてはならん。鍛え抜かれておる。

「お、おい! あの小坊主は何者だ?」

「初出場でいきなり本戦出場とは……」

 彗星の如く現れた謎の小坊主の存在に、観客も選手も皆驚いた様子だった。

 イックーさんが本戦出場選手の控えとなっている一服一銭の茶屋に入ってみれば、一人の男が腕組みをして待ち構えておった。

「フぅぅ……やはりお前か! 上がって来ると思っていたぞ!」

 全裸の細マッチョである。

「あ、あなたは……キッ××チョメチョメさん!」

 そう、以前イックーさんに勝負を挑みにきた、イキ者のキッ××さんだ。全身の筋肉が汗で輝き、なまめかしい。

「んふゥ……嬉しいぞイックー、お前ともう一度勝負ができるとは」

「あなたも出場していたんですか……!」

「おれは大会の常連だ」

 ろくでもない。

「……おいキッ××、そやつがイックーか? 見たところただの小坊主のようだが」

 キッ××さんの背後から、武家姿の男が声を掛けてきた。常に左手を素早く動かしており、機械的なその動きは見る者を不安にさせる。

「アナどるなよ。こいつはおれが認めたイキ者だぞ」

「フッ、おぬしがそこまで言うとはな……」

 キッ××さんの堂々たる言葉に、武士は左手を激しく動かして返す。

「あの……あなたは?」

 イックーさんが誰何すいかすれば、武士は左手をせわしなく動かしながら答えた。

「それがしは、シコいち。西国さいごくではこのキッ××と並び称されるイキ者だ」

「シコいちさん……!」

 すごみがあるわい。

「フッ……イックーとやら、予選を突破したのだから、なかなかのアスぢからの持ち主なのであろう。だが、それがしに勝てるかな?」

「う、うぅ……!」

 イックーさんが気圧されたとき、部屋の隅から妙に艶やかな声が響いた。

「うふふふ、シコいちさん……随分と偉そうなことを言いますね? 去年はわたくしに負けたくせに」

 シコいちさんがそちらを睨み付けた。袈裟を着た坊主が座っている。痩身ながら異様な迫力があった。

「ふん、今年はそうはいかんぞ……!」

 イックーさんはキッ××さんの突起をツンツンと突いて、小声で尋ねた。

「あの方はどなたで?」

「ンッ……懇願寺派の僧にしてイキ者、練乳上人れんにゅうしょうにんだ。何度も優勝している実力者だぞ」

「オッホォ……!」

 すごみがある。

 練乳上人はニヤリと笑った。

「少しは楽しませてくださいね……このわたくしを。このままではつまらなさすぎて、練乳が出てしまいそうになる……」

「う、あァ……!」

 こんなアス自慢の連中に勝てるだろうか? イックーさんは不安になった。もういっそ帰ってしまいたいが、亀頭屋の新作はやはり気になる……迷っているうちに、勝負の時間となってしもうた。

 ふんどし一丁になって出発地点に並びち、おもりを入れて開始の合図を待つ。

「ンッ、おァ……あッん……!」

 おもりは想像していたよりも重く、ずしんと下腹にこたえた。これはつらい戦いになるだろう……

「さあッ、夢漏町むろまちで最高のアスを決めるこの括約筋かつやくきんの祭典に、今年も雄々しき勇者たちが集いました! 降り注ぐ夏の日差しよりなお熱く、彼らの下腹部は燃えたぎっていることでしょう……実況はわたくし、フルちイキ郎でお送りします」

 夢漏町で評判の名司会者の、情熱的な舌鋒が冴える。

「この暑さの中、観客席には多くの人が詰めかけておりますが、VIP席にはなんと将軍様の御姿もあります! これは負けられません……さあ今、開始の鐘が高らかに鳴り響こうとしている……」

 ゴーン……近くの寺の鐘が打ち鳴らされた。

「鳴ったァーッ! さあ各自一斉に駆け出したッ! 解き放たれた野獣にも似て……い、いや、一人遅れています! なんということだァーッ、イックー選手出遅れてしまった! どうしたと言うのか!」

「しまった!」

 色々と刺激が強すぎて朦朧としていたイックーさんは、慌ててスタートした。

「ンッ、ハァハァ……ンッ……ハァハァ……!」

 必死に走るが、まったく追いつけないどころか、ぐんぐん離されてゆく。おもりを入れたまま走るのは予想以上にきつかった。油断すると気が狂いそうになる。

「んぐっオ……アッヒ……ハァあ……ンッ!」

 内股になりながら走るイックーさんの遥か前方、三人は既に美輪湖を泳ぎ始めていた。先頭は練乳上人、次にシコいちさん、キッ××さんと続く。

「うふふふ……キッ××さん、あなたがご執心のイックーさんとやらは、もう脱肛……いえ、脱落寸前のようですよ? 哀れな姿ですねえ」

 ざぶざぶと泳ぎながら、練乳のようにねばつく口調で、練乳上人がイッた。

「やつはこの程度じゃねえ、そのうちわかる」

 キッ××さんの言葉に続き、シコいちさんの眼光がギラリと輝いた。

「フッ、人の心配をしている余裕などないことを、思い知らせてやる……ぬうぅぅぅぅぅおおおぉぉ!」

 裂帛れっぱくの気勢が放たれれば、シコいちさんの周囲の水面が、爆発的な水煙を立てた。

 司会席でフル勃ちが腰を浮かせる。

「おおっとォー、シコいち選手の周囲で激しい水柱が起きている! なんだこれは! 美輪湖の竹美ちくび島におわすという、水の神の怒りなのか?」

 シコいちさんが凄まじい速度で推進し、瞬く間に練乳上人に並んだ。

「これは一体……?」

 練乳上人もさすがに驚いた様子。

「去年おぬしに負けてから、それがしは反省したのだ……絶対の自信があった右手を封印し、左手のみを使ってきた」

「なんと、それでは……」

「そう、今やそれがしの両手の筋力は均等! 水を激しくシコることで、爆発的な推進力を生み出す……それがしの奥の手だ!」

「シコいちのやつ、いつの間にこんな技を……」

 キッ××さんは、自然と笑みを浮かべておった。脅威を感じてはいたが、同時にライバルの成長を嬉しく思う気持ちも強かった。この調子なら、泳ぎではシコいちさんが勝つだろう。最後の牛車引きで巻き返せるか? アスぢからが最も試される競技だ……

「……やりますねえ」

 だが練乳上人の、練乳のような微笑は消えてはいなかった。脇を通り過ぎようとするシコいちへと、スーッと近付いていく。

「なんだ、邪魔するつもりか? やめておけ、それがしのシコリューに巻き込まれたら無事ではすまんぞ」

「いえいえ、滅相もない……うふふ、ふ!」

「……ンッ……な、アッッヒイイイイィィィィィィ!?」

 直後、湖面に恐ろしい叫びが木霊した……これは、イキ声……?

「おーっとシコいち選手、いきなり失速ゥー! 自爆したのか? やはり両手を一度に使うのは無理があったのでしょうか!」

「シコいちィーッ!」

 フル勃ちの実況を掻き消すほどの声で、キッ××は叫んだ。

 シコいちさんが勝負をかけるときは勝算があるときだと、キッ××さんは知っておった。自爆などするはずがない……水面下で、何かが行われたのだ。何か恐ろしいことが、美輪湖の水の下で起きたのだ……

「練乳上人ッ、シコいちに何をしやがった!」

「うふふ、言いがかりはよしてください……ただ一つ言えるのは、彼はイッてしまったということだけです」

 練乳上人は悠然と泳ぎ去っていく。

「さあ、お友達を助けなくていいのですか? 溺れてしまいますよ、うふふ」

「くっ、卑劣な……!」

 キッ××さんは全力で泳ぐと、シコいちさんを抱えた。

「あひッ……ヒッ……ァアうッ……!」

 シコいちさんは白目を剥いて痙攣していた。

「こいつはひでえ……おい、しっかりしろ!」

「う、グッ……き、キッ××、それがしのことは、捨てて……ヒグッ」

「馬鹿を言うな!」

 キッ××さんは、近くの岸に向かって泳ぎだす。

「邪魔には、なりたくない……イってくれ、イッてやつに勝ってくれ……!」

「お前を見捨てて勝って、何の意味があるってんだ?」

 毅然として返してから、キッ××さんは背後を一瞥した。バシャバシャという水の音が聞こえてきていた。

「それに、やつを倒すのは……おれの役目じゃねえ」

「ふぅふぅ……あれ? どうしたんですか、お二人とも」

 そう、イックーさんが追いついてきたのだ。

「おれたちのことは気にせずイけ」

「え? まだイッてませんが……」

 シコいちさんは、白濁しかけた瞳を細めた。

「……イックー、気を付けるのだ……んっ! 練乳上人は、摩訶不思議な技を使うぞ……ンッ!」

「もう喋るな! イッたばかりで敏感になっているのに……!」

 キッ××さんのせいしを振り切って、シコいちさんは語りだした。

「それがしは……ンッ! 何をされたかも、わからなかった……んっ! ただ、ほんの少し触られただけだ、ンッ! それだけでイカされた! 情けないことに……んっ!」

「触られただけ……?」

「んっ! そうだ、気を付けろイックー……ンッ! そして、できれば……んっ……それがしとキッ××の無念を晴らしてくれ……んヒッ!」

 痛々しいのう……

 イックーさんは元々、優勝賞品が欲しいだけだった。しかしこうして、無残にイカされ息も絶え絶えなシコいちさんの姿を見ていると、不思議と胸に熱い想いがこみあげた。人は誰しも、イクときは自由であるべきではないのか? 誰一人として、望まぬ絶頂を迎えるべきではない。そのみじめさはよく知っておった。

「……やれるだけのことは、やってみます」

 イックーさんは静かに答えると、バシャバシャと順路に戻っていった。シコいちさんとキッ××さんは、その背中を眩しそうに眺めていた。

「……もう、随分と差をつけられてしまったぞ……ンッ!」

「それでもおれには……イックーが負ける姿は想像できんのだ。相手があの練乳上人だったとしてもな」

「フッ……おぬしがそう言うなら、ンッ! それがしも信じよう……ンウッ!」

 さて、みちゆきの先では、練乳上人が既に牛車を引き始めていた。

「ぐっ、おぉ……んぎいぃ……!」

 大の男でもやっとの牛車を、アスのちからだけで運んでいく。器具がヌケればその時点で失格という、慣れている身にとっても過酷な競技だ。

 フル勃ちの実況が響き渡る。

「さあいよいよ、いよいよだ……誰もが備えるアスという名のうつろに、情熱を注いだ勇者たちの頂点が決まろうとしています! 今年もやはり練乳選手か? 強い、強すぎます、強さに穴がないッ!」

 練乳上人は客席に手を振る余裕さえ見せた。もうゴールまで幾許いくばくもない。

 誰もが練乳上人の勝利を確信していたそのとき、後方からギッ、ギッ、という牛車の軋みが聞こえてきた。

「こ、この音はまさか……あ、あ、あぁあぁ、来た、イックー選手だァーッ!」

「なにっ!」

 練乳上人も驚愕した。

「んっ、ぐっ……お、ふぐっ……ぬあぁっ!」

 全身の筋力を振り絞り、アスから勃ちのぼる快楽の気配に耐えながら、イックーさんは前に、ただひたすら前に進んでイク。

「早い早い、イックー選手! なんと早いのか……男はたかぶると前をムクもの! ならば彼が振り向かないのは、当然のことなのでしょう! 夢漏町よ見るがいい、そそり立つこのおれのイキざまを……そんな声すら聞こえてきそうでありますッ!」

 フル勃ちの実況と、観客たちのざわめきが響く中、練乳が余裕を取り戻す。

「……うふふふ、やりますねえ? あそこから追い上げてくるとは……しかしあなたには、マンにひとつの勝ち目もありません……」

 その両手が妖しくうごめいた。

「できればこの技は、衆目に晒したくはなかった。これはわたくしの寺に伝わる秘伝……しかし今、あなたを敵として認めましょう……ホワタァーッ!」

 追いついてきたイックーさんへと、両手の指を繰り出す。その指先がイックーさんの胸の突起に触れた瞬間、

「アッイグイグゥ、ングッオオオオォォォォイッグゥ!」

 イッてしもうた!

「うふふふ……人体には、突かれれば必ずイッてしまう秘密の点があるのです。わたくしは寺で、血のにじむような修行の果てに、この点を体得しました……」

 秘密でもなんでもないと思うが……まあ、触っただけで問答無用にイカせてしまうのは、確かに神業ではあるのう。

 口の端からよだれを垂らし、背筋を伸ばして痙攣するイックーさんへと、練乳上人はねばつくような口調で続けた。

「一度イッてしまえば、人は全身のちからを失う。そのゆるんだアスでは、もう牛車を引くことはできないでしょう。安らかにおイキなさい……」

 練乳上人がゆるやかに合唱し、引導を申し渡したとき、ギッギッと車輪の軋む音がした。イックーさんは、まだ止まってはおらぬ。

「フウッぐ……フウんッぐ……!」

「なにっ! まだ動けると言うのですか、往生際の悪い……ホワタァッ!」

「ングアァアッイイイィィィィ! あ、あぁ……グッ」

 ……ギッギッ……

「ウァタタタタタタタタァ、ホアッタァッ!」

「ヒッアッンゥッ! イッ……グッホオーォォッ! あ、ひ……ひぐッ……グッ」

 ……ギッギッ……

「な、なぜ……!」

 このとき初めて、練乳上人の顔に焦りの色が浮かんだ。もはや常人ならば気が狂うほどの回数イッているはずなのに、いっこうに立ち止まろうとしない。

「なぜ止まらない! いや……なぜヌケない! ヌケないはずがない! もうアスはゆるゆるのはずです、ホワァタタタタタタァッ!」

「ンギッンギいッグひいぃっアううぅイィッ……グッ」

 ……ギッギッギ……

 フル勃ちも観客たちも、もはや言葉もなく見守っておった。何度イッても歩みをやめない小坊主の姿に気圧されていた。いつしか頬に、熱いしずくが伝うのもかまわずに。

「……くじけません……わたし、は……」

 イックーさんは汗にまみれ、瀕死になりながらも前に進む。

「わたしの身体を、いくらイカせたところで、心までは支配できません……わたしの心がしまっているかぎり、アスもまた……しまっている!」

 ……ギッギッギ!

「あ、ああ……イックー選手がヌイた! 練乳選手をヌキましたァー! 我々は今、歴史のイキ証人となろうとしているのです!」

「し、しまった! イカせることに夢中になりすぎて……くっ!」

 練乳上人は慌てて追いかけたが、もうゴールは見えていた。

「……勝てない? このわたくしが……負ける? 許されない、そのようなことは……お、おのれ、イックウゥゥゥゥーッ!」

 練乳上人は無我夢中で右手を伸ばした。その手がイックーさんが引く牛車の鴟尾とみのおを掴んだ。そうだ、邪魔をしてやる! 失格になってもよい、勝たせはしない……練乳上人の顔が醜い笑みを刻んだとき……

「ぬ、うう……ううぅ、おおおぉ、おおおぉぉぉぉンッ!」

「なっ……!」

 練乳上人と彼の引く牛車ごと、イックーさんは尚も進んだ。牛車二台と人間一人をアスぢからのみで引きずって……

「──んゴおおおぉぉぉーッル!」

 フル勃ちがフル立ちになって叫んだ。

「し、信じられません……勝者、イックー選手ゥー!」

「ば、馬鹿な……こんな、圧倒的なアスぢからを……」

 練乳上人はその場に崩れ落ちた。

「あ……あぁ……ァ……」

 フラフラになったイックーさんのアスから、ヌポッ……と器具が抜けた。そのまま前のめりに倒れていく……昨日を振り向かず、今日を懸命に、アスを信じて戦いヌイてきたが、もう限界だった……

「──イックーどの!」

 その身体をガッシリと受け止めたのは、原罪の名を冠する男だった。急いで駆け寄って来たのだ。頬を伝う熱いしずくもそのままに、何度も頷いて見せる。

「よくぞ、よくぞ、これほどまで……このシンえもん、感動したでござる! 将軍さまも大満足ですぞ!」

 VIP席には、激しく足の匂いを嗅いでいる将軍さまの姿があった。

 イックーさんは弱々しく微笑んだ。

「……疲れ、ました」

「ほっほっほ、イックーさん、おめでとうございます……」

 どことなく卑猥な形状の頭をした商人が、パチパチと鷹揚な拍手をしながら歩み寄ってきた。

「亀頭屋、さん……」

「いやはや……いいものを見せて頂きましたぞ。この新作は貴方にこそ相応しい。進呈致しましょう」

 亀頭屋さんはなにやら奇妙な形状の器具を取り出した。

「……なんですかこれ」

「これは尻子玉刺激装置河童しりこだましげきそうちかっぱくんと申しましてな、アスにいれたとき、一番気持ちのいい部分に当たるよう、研究に研究を重ねた……」

 イックーさんは、思わず叫んだそうな。

「もうお尻はイヤだーッ!」

 ……いまいちオチが弱いが、勘弁してくだされや。

 これが本当の、しりすぼみということだからのう、フォッフォッフォ……

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