第14話 ある小坊主の咄


 アンッコク寺にはイックーさんだけではなく、たくさんの小坊主が修行しておるが、その中にとんでもなく長い名前の小坊主がおったそうな。

 元々はいいところのお坊ちゃんで、初子であったので、両親が名づけに気合いを入れ過ぎてしまった。

 初めてで気合いを入れ過ぎると、おおかたしくじるものよな。

「うーん、良い案が浮かばねえ……」

「早く決めてくださいな、あなた」

「いやいや、そんなポンと出るもんじゃねえよ? なにせこの子は一族の未来を背負う子なんだから、夢漏町むろまちで一番の名前じゃなきゃダメなんだ……」

「夢漏町で一番ですか」

「おうよ、まず『おしり』は入れなきゃな。あと夢漏町的には『バイブ』も外せねえ」

「じゃあ、おしりバイブちゃんで決まり?」

 ひどい話だのう。

「いやいや、もっともっとイキ心のある名前じゃなきゃいかん……親戚たちの考えも聞いてみよう」

 と、こんな具合に、一族みんなで考えた名前を全部付けたら、とんでもなく長い名前になってしまったということじゃ。

 可哀想にな。

 そののち弟が産まれたが、その子はごく普通の名前だったので、幼い小坊主が不思議に思って尋ねると、父親は申し訳なさそうに言った。

「お前のは若気の至りだった……」

 小坊主は世を儚んで出家したそうじゃ。

 哀れなことよ。

 さて、イックーさんがあるとき自室でイこうとしておったところ、ふと気づいてみれば紙がない。 

「あっ、まずい!」

 このままではひどいことになる。なぜ紙を用意しておかなかったのだと後悔せども後の祭りよ。

 一度ステンバイしてしまったイックーさんは既にカウントダウン状態、後はテイクオフするだけで、緊急停止ボタンはないのじゃ。

「だ、誰か、誰か……紙をください、紙を! ンッ……ア……も、もうッ……」

 慌てふためいていると、ふと窓の外を通りがかった小坊主の姿が見えた。

「あっ! 丁度いいところに!」

 イックーさんは息を吸い、

「あの、すみません! ジュルルジュルルおしりがすりきれ海綿体かいめんたい脹らむの水着になりますウンコ出しますふぐり出しますクンクンするところに吸うところブラブラ陰部のブラ陰部バイブバイブのジュルジュル感ジュルジュル感のグリグリ出すグリグリ出すのぽんぽこピー(隠語)のぽんぽこナースの超嗅覚の超助平さん! 紙をください!」

 小坊主は立ち止まると、キョロキョロした。

「え? 誰か今、私の名前を……?」

「こ、此方です……ジュルルジュルル……お、おしりが、すりきれ……海綿体脹らむゥの水着になります、ウンコ出します、フ……ふぐり出しますクンクンするところに吸うところブラブラ陰部のッ……ブラ陰部アッ……バイブバイブのジュルジュル感ジュルジュル感のングッグググリグリ出すグリグリ出すのもう出ちゃうぽんぽこピー(隠語)のぽんぽこナースの超嗅覚の超助平……さあぁぁアァアァァァァッ……も、もう、だ……だめェ……」

「おや、イックーさん、どうしたんです? このジュルルジュルルおしりがすりきれ海綿体脹らむの水着になりますウンコ出しますふぐり出しますクンクンするところに吸うところブラブラ陰部のブラ陰部バイブバイブのジュルジュル感ジュルジュル感のグリグリ出すグリグリ出すのぽんぽこピー(隠語)のぽんぽこナースの超嗅覚の超助平に何か御用ですか?」

 小坊主が駆け寄ってくる間に、

「──ンッアアァァァァァァァッヒッッグウゥゥゥゥアァァァァアーンあ……あ、ひ……ぐっ……お……ンッ……!」

 イックーさんは、激しく離陸しておったそうな……

 名前が長すぎると、いざというとき大変なことになるといういましめじゃな。

 皆さまも、どうかお気を付けなされや。

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