第10話 はしやすめの咄、壱

 さて、久しぶりのイックーさんじゃが、ちょうど連載十回目ということもあって、今日は少しばかり趣向を変えてみようと思うておる。

 イックーさん、このまえいちどきに十回もイッてしまったから、少し休ませてやらねば死んでしまうでな……

 そこで、イックー早潤ソウジュンという人が、どのような人かということを、のんびりと話してみようと思うたわけじゃ。

 皆さまは、茶の湯放ゆまりという文化をご存知かな?

 そう、趣向をこらした茶室に客人をまねき、亭主がジョロロローッと黄金色の茶を注いでもてなす作法のことじゃな。

 この茶の湯放ゆまり、元々は高価な茶器や茶道具やしびんを用いるのが主流であったのだが、あるときから質素を旨とする「わび」という考え方が生まれはじめた。

 さてこの「わび」が、じつはイックーさんと浅からぬかかわりがある。

 イックーさんが還暦かんれき間近になり、えらいお坊さまになった頃、一人のお役人の息子がお弟子となったそうな。

 その名を、村田シッコというてな。僧籍に入ったものは基本的には苗字を呼ばぬので、シッコと呼ぶのが正しいか。

 シッコが、イックーさんから学んだイキ心を茶の湯放ゆまりに取り入れたのが、わびの原点だと言われておる。

 さて、このシッコともう一人、同時代に偉大なる達人がおった。

 名を武野ジョオオォーというて、和歌の名手であり、その道で学んだ稽古と創意工夫の思想から、イキの心へと至ったお人じゃ。

 シッコとジョオオォー、この偉大なる二人に師事した男こそ……

 そう、皆さまもご存じ、せん休よ。

 この湯放ゆまりの巨人の登場によって、わびの道は完成をみたといってよい。

 シッコ、ジョオオォー、せん休……安土桃尻時代をイキ抜いたこの三偉人の創り上げたわび心の原点には、イックーさんがおった……そういうことじゃ。

 皆さまもときには、世俗のあかを忘れ、イキ心に思いを馳せてみなされや。

 そして、先人たちがイッたからこそ、たくさんの命が……ひいては今の世の中があるということを、ときどきは思い出してみるのも、またよいことじゃろう。

 イクからこそ、イキるのじゃ。

 では、次からはまたイックーさんがイキまくる咄を書きますので、気長にお待ちくだされや……

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