第7話 あまりに罰当たりすぎてオチがぼやけた咄

「──イックウウゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥアァァーンッ!」

 可愛い女の子の嬌声かと思うたか? 残念、イックーさんじゃ。期待するな、期待してはならぬ……

 子供向けではないおもちゃ、TENGUを手に入れてからのイックーさんは、それはもう神がかり的なアベレージをたたき出しておったそうな。

「おッあ、ァ、オ……あ、ああ……ふぅ……もう今日で、十二回か……」

 ギネスものじゃな。

 このように日々、覚えたての頃のようなフレッシュな気持ちで過ごしておったのだが、ある日を境にハタとTENGUを使うのをやめてしもうた。

 このままでは天狗に連れてイカレてしまう……そう、まるで神隠しのように……

 固い決意を持って、泣く泣く本堂の物陰に封印したのじゃ。

 そうしてひと月ほど過ぎたある夜更け、ふと目を覚ましたイックーさんは、ふらふらと本堂へと向かった。

 ……TENGUが……呼んでおる!

 イカねば……アレ勃ちぬ……いざイキめやも……

 幽鬼のようなありさまで歩くイックーさんへと、ふと声がかかった。

「イックー?」

「ビックー!」

 おっと、イカぬイカぬ……

「お……和尚さま……!」

「こんな夜更けにどこへイク?」

「い、いえ、あの……ちょっとその、かわやへ……」

「かわやはこちらではないぞ?」

「あっ、そ、そうでしたね、寝ぼけてました……ハハハ……」

「待てイックー!」

「ビックー!」

 背筋を伸ばすイックーさんへ、和尚さまはズイッと顔を近づけて、

「おぬし、まさか……どこぞでイこうとしているのではないだろうな?」

「いえ、そんなまさか! ハハハ……も、モレそうなので、失礼します!」

 そそくさと去り、物陰に隠れて和尚さまが去るのを待った。

 和尚さまが起きているのだから、今夜はやめておいた方がよい、しかもなにやら疑われている様子だし……そう頭ではわかっていても、一度火のついた欲情は収まらぬ。

 静かに素早くヌけばバレないだろうと考え、イックーさんは抜き足差し足、本堂へと向かったのじゃ。

 浅はかさもここに極まれりじゃな。

「ンギッ……ンッ……ッホオオオォォォアァム゛リ゛ィィッ!」

 おお、御仏よ哀れみたまえ……

 久しぶりのTENGUの心地よさに、化け物じみた声が出てしもうたイックーさんは、慌てて耳を澄ました。

 すると、ダダダダダダ……足音が聞こえるではないか。

「こりゃあああ、イックゥーッ!」

 怒声も聞こえるではないか。

「アッ……ウ……あ……!」

 イックーさんが余韻を味わいながらも恐れおののいているうちに、ドンドンドンと戸を叩く音がした。

「本堂でイクなとあれほど言うたろうに! この罰当たりめが!」

 たまに和尚さまが入ってくるため落ち着いてイけないので、最近はしんばり棒を渡すようにしておったのだが、戸は今にも破られそうじゃった。阿修羅と化した和尚さまが入ってくるまで、時間はあまりない。

 だが、この危急のとき、イックーさんは……そう、賢者の刻を迎えておった!

「……ふふ」

 イックーさんは一人、余裕の笑みを浮かべた。

 勝利の道筋は見えておる……

「こりゃイックーッ! 早く開けんかああああぁぁッ!」

 ドンドンドンドン、和尚さまが怒り狂っておる。もう時間がない。

 今すぐTENGUの中身を仏様の口元になすりつけ、入ってきた和尚さまに、こう言うのじゃ……

『いえ、わたしはイヤだって言ったんですよ? でも仏様がどうしてもって言うから……ほら見てください、仏様の口元に……』

 ……イックーさんは、静かに微笑んだまま首を振った。

 そして、大人しくお叱りを受ける覚悟を決めたそうな。あまりにも罰当たりすぎて、さすがにそればかりはできなかったんじゃの。

 おお、御仏よ哀れみたまえ……

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