第6話 道具を使う咄

 イックーさんは切れ痔になったためおしりの開発を断念し、純真な気持ちで道具をつかったプレイにいそしむようになった。

 それがよい、それがよい……

 夏も近付くある日、シンえもんに呼ばれたので、都にあるお屋敷へと向かったそうじゃ。

「シンえもんさーん、参りましたよ」

 門前で呼ばわると、

「おお、イックーどのか! 入ってくだされえ!」

 中に入ってイクと、原罪の名を冠せし男は台所におり、何かをコトコトと煮ておった。

「いやァ、急にお呼びたてして申し訳ない……」

「なんですかそれ?」

「コンニャクでござる」

「……へえ」

「人肌の温度にしておったのです」

「へえ……」

「……おでんにござるぞ?」

 あやしいものじゃて。

「……それで、なんの御用です?」

「おお、そうそう! 実はですな、将軍さまが金カク寺に遊びに来ぬかと……」

「ンッホ!?」

 イックーさんはイキを呑んだ。

「い、いやですよ、そんな……!」

 また無理やりイかされては、たまらない。

 人は最後にイクときは、孤独でなければならぬ……それがイックーさんの最近の哲学だった。誰かの手でイかされるのは邪道だと。

 かわいそうに……

「まあまあ、そう言わず! 亀頭屋きとうやさんもいるそうですぞ」

「もっといやです!」

 イックーさんがそっぽを向けば、シンえもんは眉毛をしなびさせた。

「ソコをなんとか。拙者、イックーどのを連れてイかないと怒られるでござる」

「いやです、イキませんよ、絶対にイキませんから」

「お願いでござる!」

「イキませんったら!」

 シンえもんは深いため息をついた。

「拙者、このままでは市中イキマワシの上乳首拷問の刑に処されるでござる……」

「……ンッ!」

 イックーさんは、想像したらイキかけてしもうた。

 夢漏町むろまちの刑罰はすごみがあるわい。

「わ、わたしは……イキ、ません!」

「ふーむ、しょうがないでござるかぁ……亀頭屋さんがすッごい新商品のお披露目をしてくれるとのことでしたが……」

「そっ、それは!?」

「使えば、えもいわれぬ法悦に包まれるとか……」

「オッアンッ! だ、だっ……イグッウックッ……ウッウウゥアァァァァ!」

 結局、イクことになったわけじゃな。

「──おお、ようきたなイックー、クンカクンカ!」

「待っておりましたぞ、イックーさん」

 金カク寺では、足嗅あしかぐの将軍さまと、どことなく卑猥な形の頭をした商人が待っておった。

「この前はすまなかったのう、わしも反省したわい、クンカクンカ!」

「いえ……それで、あの……新商品というのは?」

「気になりますか、ふふふ……!」

 亀頭屋さんはイックーさんの食い付きに気をよくした様子で、新商品を出してくれた。

 細い筒のようなものじゃ。

「これはTENGUと申しましてな、こちらの一端から天狗の鼻を入れて使うのです。中はたいそう心地よいのですぞ」

 天狗の鼻とはもろちん隠語じゃな。

「その心地よさ……なんと当社比19.0721倍ッ!」

「ホォウゥッ!?」

 イックーさんは感心しつつイキかけた。

「おためしいたしますか?」

「ハ、ウグッ……え、ええ、もしよろしければ……」

「もちろんいいですぞ……ただし!」

 亀頭屋さんは将軍さまにチラと視線を向けた。

「これは、蓋を開けてはならぬのです」

「なんですって?」

「このTENGUは、蓋を開ければ中の気持ちよさがダメになってしまうのです。だから、蓋を開けてはなりませんぞ」

 イックーさんは困惑したそうな。

 蓋を開けずに天狗の鼻が入るわけがない。

「では、わしらはちと席を外すでの……好きに使っておれ、クンカクンカ!」

 将軍さまは亀頭屋さんとシンえもんを連れ立って廊下に出ると、歩き去ったふりをして戻り、遠巻きに眺め始めた。

「クンカクンカ……手に取って見ておるわい……!」

「蓋を開けずに使えるわけもないのに……フフフ……」

「……なぜこんなことを? モグモグ」

 シンえもんの言葉に、将軍さまと亀頭屋は笑いおる。

「使いたいのに使えないというのは、さぞやもどかしいはず」

「そうしたらイックーは、きっと派手にイクに違いない。わしはそれが見たいのじゃ、クンカクンカ!」

 シンえもんは呆れた。

「人が悪いですなあ、モグモグ……」

「……お?」

 将軍さまはいぶかしげに眉をひそめた。

「床に置きよったぞ、イックーのやつ……クンカクンカ?」

「なあに、きっと今頃イキたくてイキたくてたまらないはずです」

 二人はそう語り合ったが……ひとつだけ誤算があった。

 イックーさんは二人が想像していたよりずっとイキやすいのじゃ……手に取った時点でイかぬわけがない。深く……静かに……イッておったのじゃ……

 そして賢者が……舞い降りる……

「──待たせたのう、どうじゃ具合は! クンカクンカ!」

 ワクワクしながら将軍さまたちが戻ると、イックーさんはとても澄んだ瞳をしておった。

「……いえ、せっかく用意してくれた亀頭屋さんには申し訳ないけれど、わたしには使えませんでした。すみません」

「お、おお、では……さぞ、イキたいでしょう?」

「いえ、別に……これは要らないです」

 亀頭屋さんは仰天したそうな。

「なぜ! 素晴らしい道具なのですぞ!」

「この手のものはやっぱり温かくないと。これは冷たすぎますよ」

 亀頭屋さんは笑った。

「ちゃんと温められますぞ! そこはぬかりない!」

「では温めてください、蓋を開けずに」

「……え?」

「蓋を開けたら中がダメになるのでしょう?」

「え、あ……いや、それは……」

 蓋を開けずに温めたりしたら、中身が膨張して二度と開かなくなる可能性がある……

 繊細なものじゃから、大切にしような。約束じゃぞ……

「できないのですか? 使うときは蓋を開けないのに、温めるときは蓋を開けるんですか? それは奇妙な話ですねえ……」

 イックーの言葉に、亀頭屋さんはタジタジじゃった。

「お、っほおお……さすがはイックーどの、モグモグッ!」

 シンえもんが嬉しそうに言い、

「むぐ……!」

 亀頭屋さんが、どことなく卑猥な形の頭に冷や汗をかき始めたとき、

「あっぱれじゃイックー、これは一本取られたわ、クンカクンカ!」

 将軍さまが足の指を扇子のように広げて言うた。

 観念した亀頭屋さんは、おわびにとTENGUを一本くれたそうな。

 まさしく一本とられたということじゃのう。

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