第4話 よい子はマネしてはいけない咄

 しばらくあって、縛りプレイにも飽きてきたイックーさんはふと大悟たいごし、おしりを開発し始めたそうな

 たのもしいことよ。

 長い長い冬をヌけて、アンッコク寺には春が訪れておった。

「ンッ……!」

 長い長いモノを使い、イックーさんにも春が訪れておった。

「これ、イックー、イックー!」

 本堂の物陰でひそかにたのしんでいたイックーの元へ、和尚さまがやってきた。

「入るときはノックしてください!」

 イックーさんは慌てて道具類を隠した。

「おお、すまんすまん……」

 和尚さまは禿頭をつるつる撫でながら、

「シンえもんが来ておるぞ」

 シンえもんはイックーさんのことがなにやら気に入ったらしく、アンッコク寺に入り浸っておった。なにしろイックーさんの道具類も、シンえもんに手に入れてもらったのじゃ。

 悪い友達じゃな。

「お待たせしました、シンえもんさん」

 旅じたくを手早く整えてからイクと、原罪の名を冠せしその男は、なにかを食べて待っておった。

「遅いでござるぞお、イックーどのォ! ムッシャァ!」

「それ、カリントウですか?」

「ソフトクリームにござる」

 本当かな?

 ともかく、今日は亀頭屋きとうやで卑猥なものの特売があるというので、二人で都へと向かったのじゃ。おためしもできるそうでの。

 どんどんアブノーマルになってゆくわい……

「──これはこれはイックーさん」

 亀頭屋にて別々の個室にわかれ、それぞれ卑猥なものをおためししていると、亀頭屋さんがもみ手をしながら現れた。

「うわ、ノックしてください!」

「ほっほっほ……それにしてもイックーさん、こんなすごいモノをお使いになるんですか」

「え……ええ、まあ……ちょっとおためしにと……」

 照れる。

「これはディスプレイ用に作ったもので、人間が使うようなモノではないのですがねえ」

「あははは、どうりで……」

 イックーさんは攻めの姿勢を崩さぬ。

「なんでも通りますなあ、いやはや、さすがはイックーさん」

「まあ、そうですね」

 イックーさん、ここでほめられて、調子に乗りおった。

「さしずめわたしは、東海道といったところです。大きな道ですからね、亀頭屋さんのお店にあるものなら、なんでも通ると思いますよ」

「……はははは!」

 その言葉に亀頭屋さんは、してやったりの笑みを浮かべた。

 後ろ手に隠していた一刀を、すらりと引き抜いて突き出したのじゃ。刃はギラギラと輝いておった。

「ではこの刀が通りますかな!」

「ヒッグァ!?」

「なんでも通ると言うのならば、通してみなされ……さあ、さあ!」

 迫る亀頭屋さん。

 以前、橋の件でしてやられた意趣返しというわけじゃろう。なんとも性根の曲がった男よのう。

 イックーは身震いしながら、

「アオッ、ッヒィアッグゥゥオオオォォックウウゥゥッ! クゥッグ、アアアッギ、ギヒイィ!」

 やれやれ、イッたな……派手に……

 生命の危機に瀕して激しくイッてしまうことは、ままあることじゃ。

 これも人のサガか……

「……ヒッグ、あ……オ……ァ……」

「さあ、自分で言ったことではありませんか。できぬとあらば、謝りなされよ」

 亀頭屋さんはもはや勝利を確信し、サディストめいた笑みを浮かべておった。

 だがイックーさんは一度イッてしまって、獣欲に曇った頭がスッキリしてからが、本番……そう、賢者のときがきた!

「……ふふ」

「な、何がおかしい!」

「わたしは東海道と申しましたね?」

「う、うむ、確かに……だがそれがなんだと言うのです!」

「東海道には、門がございます。そう、関所です……奇遇ですが、わたしにも同じく門がございます」

「ぬ、ぬ……う……!」

 イックーさんは、ニコリと邪気なく微笑むと、小さく頭を下げたのじゃ。

「関所が武具の類をすんなりと通すようでは、用を成しませぬ。お引き取りください」

「ぐっ……ぬううぅ……う、う……!」

 亀頭屋さんはしばらく、どことなく卑猥な形の頭を真っ赤にして唸っていたが、やがて深いため息を吐いた。

「……くっ! またしても……またしても……覚えていなされよ、イックーさん!」

 イックーさんは、仏性に満ちた微笑みを浮かべて言うたのじゃった。

「ええ、忘れられないほどにイキましたよ」

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