第4話 綴られる想い
美咲からメールが届いた。
<亜美 仕事どぉ?少しは慣れた?いい男いた?久しぶりに休み取れたから
鎌倉行きたくなっちゃった~金曜の夜行ってもいい?>
<美咲~元気?仕事は順調です^^金曜日OKです!泊まってってもいいよぉ♪>
<そんじゃぁお言葉に甘えて^^>
「お母さん~今度の金曜 美咲が泊まりに来るから、私もなるべく早く帰るから夕食お願いね」
「美咲ちゃん?そぉ久しぶりねぇ、寒いからお鍋にしようかなぁ」
久しぶりの来客に母はすごく嬉しそうだった。
金曜日17時30分過ぎ 定時にオフィスを飛び出す。
「お疲れさま でしたぁ」
ホールに出た瞬間に堤部長とぶつかりそうになる。
「あっ、すみませんっ」
「あっ、いや・・・大丈夫?お疲れさま」
「お疲れさまでした~」
(すごく疲れた顔・・・ )
堤部長の後姿を見ながらエレベーターへと急ぐ。
鎌倉駅で美咲と18時半に待ち合わせ、何とか5分前に鎌倉駅に到着する、美咲は改札口でスマホを覗き込んでいた。
「ごめん~美咲~待った?」
「ううん、私も今来たところ、やっぱ鎌倉はいいねぇ心落ち着くわぁ」
「家に連絡入れとくね」
「あっ、亜美もスマホにしたんだ」
「うん、遥にそうしろって言われて強引に」
「あっお母さん、うん、今 駅に着いたから、うん美咲も一緒、えっ石狩?うん、じゃあ」
「何だって?」
「今夜は石狩鍋だって」
「うぅ~寒い、石狩鍋かぁ~美味しそう、早く行こう、あっこれケーキと新潟の地酒」
「ありがとう、じゃあ いこっか」
バスで家に向かう。
「ただいまぁ~」
「お邪魔します」
HARUが大きな声で吼える。
「HARU~久しぶりぃ私のこと覚えてる?」
「いらっしゃい、美咲ちゃん」
「こんばんは、すみません突然、お邪魔します~お言葉に甘えて1泊分の用意して来ちゃいました」
そう言って美咲が笑って、バックを指差した。
「寒かったでしょ~どうぞ~入ってちょうだい」
「うわぁ~美味しそうな匂い」
「あっ、これ美咲から、ケーキとお酒・・・新潟の地酒いただいちゃった」
「あぁそんな気使わないでいいのに、じゃあ今夜早速頂こうかしら、美咲ちゃんもいけるでしょ?」
「はい、そのつもりで・・・」
美咲の顔を見て母と笑った。
石狩鍋を囲んで弾む会話、リビングに笑い声が響き渡る。
「本当に、こんな楽しい夕食久しぶりです、写真撮っておこう」
そう言ってスマホを取り出す。
「亜美、はい?こっち向いて」
「やだぁ~美咲~」
「はい、撮るわよぉ~」
そう言って美咲はスマホのシャッターを押した。
「ところで亜美、会社でいい男いなかった?」
そう言って石狩鍋の鮭を頬張った。
「そんな・・・いい男なんて簡単には、いないわよ」
「美咲ちゃん結婚は?」
「お母さん?なんでそう・・・ストレートなのよぉ」
「いいのよぉ、お母さんの周りにもどこかにいい男いませんか?」
「この日本酒、越の景虎ホント美味しいわねぇ~」
「亜美~今・・・話逸らそうとしたでしょ~」
リビングに3人の笑い声が響く。
「あらもうこんな時間、私、先にお風呂 入ってくるわね」
そう言って母はリビングから出て行った。
ふたりきりになって、美咲が私の顔を覗き込んで、訊いてくる。
「亜美、なんだかキレイになったね」
「えっそぉ?」
「うん、絶対キレイになったよ~恋・・・してるでしょ?」
「そんな、こと・・・恋なんかじゃ」
「話したくなきゃいいよ、亜美だって今は一人なんだし、恋したっていいじゃない」
「・・・」
「美咲、フェイスブックって知ってる?」
「ん? あぁあの~アメリカのSNSね、私そういうの面倒でやってないけど・・・」
「それでね、会社の人と・・・」
「えぇ?亜美フェイスブックやってんだぁ、会社の人って男?」
「うん・・・」
「そんで・・・その人に恋してんの?」
「違う、だって奥さんだっているし・・・」
「妻子持ちかぁ、いい男はみんな妻子持ちだよね~」
「そんなんじゃないってば・・・」
「送ろうよぉフェイスブックで、今・・・写真も送れるんでしょ?」
「やだよぉ~ヤダ絶対イヤ」
「だって・・・関係ないんでしょ?ただの友達なんでしょ?」
「・・・」
「さっき撮った写真送ろうよぉ~」
美咲にそう言われて、酔った勢いもあってフェイスブックに書き込みをする。
<まだまだ寒いですね~今夜は石狩鍋にしましたヾ(@⌒¬⌒@)ノやっぱり寒い時は鍋ですね~身体温まりました♪堤部長は今夜何食べましたか?>
さっき美咲が撮ってくれた写真を添付する。
「堤部長って言うんだぁ」
そう言って美咲はソファに座り込んだ・・・720mlの地酒の瓶が空になっていた。
「美咲、美咲~お風呂、いいわよぉ」
美咲は、ソファで気持ちよさそうに眠っている。
「でもね、堤部長には大切な家族・・・いるんだよ、ダメだよね、好きになんて なっちゃったら・・・そんなこと、わかってるよ」
「・・・亜美」
「ん?なんだ~起きてたの?美咲?」
「なんだ、 寝言・・・か」
私もいつの間にかリビングで寝入ってしまう、そして母の声で起こされる。
「ふたりともそのまま寝ちゃったの?風邪引くわよぉ熱いシャワーでも浴びてらっしゃい」
「美咲、バスタオルここおいとくね」
「ありがとぉ~」
「朝食出来てるわよぉ~」
リビングには干し海老と油揚げ、白髪ネギがトッピングされた中華粥があった。
「美咲ちゃんゆっくりしてってね」
「ちょっと飲みすぎちゃって・・・うわぁ中華粥 美味しそう」
楽しい時間はあっという間に過ぎていく。
「本当にお邪魔しましたぁ」
「私も楽しかったわ、また来てね 美咲ちゃん、いつでも待ってるから」
「はい、ありがとうございます」
「じゃあお母さん、美咲 駅まで送って行くから」
冬晴れの鎌倉の街をふたりでゆっくり歩き出す。
「HARU~散歩行くわよぉ」
「・・・」
「美咲、仕事・・・大丈夫なの?」
「うん、新しい上司来てね、春に移動させられそうなんだ」
「そうなんだ・・・」
「亜美・・・」
「ん?」
「好きな人、もしその人のこと本当に好きだったら、伝えなきゃダメ」
「え?・・・うん」
「なんてね・・・それは私も同じか」
美咲は少し寂しそうに笑った。
「またね、今度うちにも泊まりにきてよ」
そう言って美咲は手を振って改札を後にした。
美咲は本当はもっと伝いたいこと、相談したいことがあったんじゃないかって、私がもっとしっかりしていれば・・・そう思った。
木曜日から堤部長は名古屋に出張だった、難航される交渉だって営業部門のスタッフが言っているのを聞いた。
ベッドでに書き込みをする<こんばんは ▽・w・▽ 堤部長 今夜は名古屋ですか?こんなこと言ったら怒られちゃいますけど、 いろんなところ行ける部長が少し羨ましいです お仕事あまり無理しないでがんばってくださいd(@^∇゜)/ファイトッ♪ >
私は本当に羨ましかった、 私は病気の後、療養でどこに行くことも出来なかった、どこかに行くことが怖かった。
仕事に没頭している堤部長はいつも眩しかった。
その反面スタバで見せた、あの時の悲しい背中はなんだったのか?ずっと私の胸の奥で引っかかっていた。
きっと名古屋でもタフな交渉を成功させるに違いない。
(私なんか・・・)それに比べてそう思うと少し悲しくなった。
でも、もっともっと堤部長のことが知りたい、ただそう思っていた。
次の日の朝、返信が入っていた。
<こんばんは 昨日新幹線で真っ白な富士山が見えました たぶん今週末まで名古屋です。 タフな交渉が続きます でも大丈夫 問題ありません!>
(昨日の夜、読んでくれたんだ・・・真っ白な富士山か~)
力強い返信に少し安心する。
(私ももう少しがんばってみよう)
そう思いながら鎌倉駅まで自転車を走らす。
急ぎの報告書を仕上げるために少し残業する。
10メートル先の堤部長の姿は今日も見えない。
(まだ名古屋かな?)
18時半過ぎ、やっと報告書を石井マネージャーに提出してオフィスを出る、ロッカールームに入る直前スマホをデスクに忘れてきたことに気づいて、急いでデスクに戻る。
「忘れ物しちゃって、お先に失礼します」
エレベーターホールに向かう。
「お疲れさまでしたぁ」
廊下で、後ろからの人の気配で振り返る。
「あっ堤部長、お疲れ様でしたぁ お戻りになられたんですね」
自然に笑顔になる、なぜか?息を切らして近づいてくる、そしていきなり、私に白い紙袋を差し出した。
「ぁあぁ、これ・・・名古屋のお土産」
「えっ?」
手渡された紙袋は思っていた以上にズッシリしている。
「名古屋の?なんだか重いですね、なんだろう?ありがとうございます、じゃあお先に失礼します」
エレベーターのドアが開き私はエレベーターの中で振り返る、すると肩で大きく息をする堤部長の姿が目に入る。
「あっ」
私が何か言いかけた瞬間ドアが閉まり、 後ろから声をかけられる。
「柴咲さん」
振り返ると深田さんの顔が見えた。
「あっ、深田さん、お疲れさまです」
「今、帰り?これから1軒つきあってくれる?」
「はい、喜んでっ」
そう言って、私は堤部長から頂いた白い紙袋をバックに入れた。
深田さんは大きなストライドで会社の近くのIRISH PUBに入って行く。
「ビール でいい?」
「はい 」
深田さんはビールとサラダとピザをオーダーした。
「ごめんね、私、ランチ抜きだったから、どぉ?コンプラの仕事?」
運ばれて来たビールで乾杯する。
「おつかれぇ~」
「あぁ~旨い」
深田さんのグラスビールは、ほとんど残っていなかった。
「あっ、よかったら、食べてピザ」
「はい、深田さんもお忙しそうですね」
「そうねぇ~日本支社の場合、春に移動があるでしょ~それで人事は振り回される、恨まれたりもする、もういやになってこんな仕事辞めちゃいたいって思う時もある。やだぁ 私が愚痴ってどうすんのよ~今の忘れて」
「え?はい、すみません変なこと訊いちゃって」
「ううん、大丈夫、問題ない、あっ、やだぁ~この口癖 堤くんのうつっちゃった、問題ない・・・っての」
「・・・堤部長って入社してから東京なんですか?」
「ん~確か5年くらい海外に行って、札幌にも移動になったことあったかな?」
「そうなんですか・・・」
「彼はタフだから、会社からはいいように使われる。損な性格なのよ、でも部下からはいつも頼りにされている、彼がいないとみんな困るのよ・・・みんな」
「なんとなく・・・わかります 」
「そぉ? あなたも?」
「私がもう少し若かったらなぁ~なんてね・・・ 」
そう言って深田さんは笑ってビールを飲み干した。
「堤くんもいつ移動になるか、サラリーマンって大変よね、上のお子さん確か高校生くらいになってた思うけど、そん時は、単身ね きっと・・・」
「またご馳走になっちゃって」
「私の方こそ無理に誘っちゃって、何か予定なかったの?」
「はい、ぜんぜん・・・ 私、今、母とふたりなんで」
「そぉ、私も会社では心許せる友達っていないの、また誘っていい?」
「はい、私の方こそ」
「じゃあまた来週・・・」
「はい、本当にご馳走さまでした」
(きっと深田さんも堤部長のこと、好きなんだ・・・あっそうだ、お土産)
バックがいつもより重いことに気づく。
(何だろう?この重いの・・・)
「ただいまぁ~ ごめんちょっと会社の人と食べてきちゃった」
「そぉ、何?その紙袋」
「えっ、あぁこれ、会社の人から・・・名古屋のお土産だって」
母が紙袋から品物を取り出した。
「あらぁ~味噌煮込みうどん、山本屋総本家、ここって老舗よねぇ確か、明日の夕食は味噌煮込みうどんね」
母はうれしそうにそう言った。
日曜の夜、母は土鍋で味噌煮込みうどんを作っていた。
「亜美は、このお味噌得意じゃなかったわよねぇ~炊き込みご飯もあるから」
(そぉ、私は小学生の頃から八丁味噌が少し苦手)
「うどん、4人前もあるのよぉ~お隣に お裾分けしてもいいかしら」
「そうねぇ・・・」
土鍋で湯気を立てている味噌煮込みうどんを見てそう言った。
母が土鍋に入った熱々の味噌煮込みうどんをお椀に移す。
「う~ん 熱っ、美味しい・・・やっぱり本場のは違うわねぇお味噌にコクがあるわぁ」
それを見ていた私も少し食べてみたくなった。
「私も少し食べてみよっかなぁ~」
「そうねぇ~せっかく頂いたんだから、一口くらい食べないとねぇ」
そう言って母は私のお椀に半分ほど 味噌煮込みうどんをよそった。
「ん?子供の頃食べた八丁味噌のイメージとだいぶ違う、美味しい」
「そぉ、良かった、亜美もう少し食べれるでしょ」
「あっ写真、お母さんこれで写真撮ってよ」
「えぇ?ここ押せばいいの? じゃあ撮るわよぉ はい チーズ」
まだ湯気の立っている土鍋の前で、美味しそうに食べてるところを1枚保存する。
お風呂上りに書き込みをする。
(でも何で?この前は・・・沖縄のマース袋?だったよね・・・そして今度は名古屋の味噌煮込みうどんのお土産か・・・)
<堤部長 名古屋 お疲れ様でした~ρ(。。、)ヾ(^-^;) 味噌煮込みうどん今晩作ってみました(本当は母が作ってくれたのだけど・・・)(⌒¬⌒*) 母とふたり「ふぅ~ふぅ~」いいながら頂きました、とても美味しくて身体も温まりましたご馳走さまでした、ではまた明日(θωθ)おやすみなさい~☆>
(少し絵文字入れすぎかなぁ )
さっき撮った味噌煮込みうどんを食べた写真も添付する。
「うぅ寒い~もう寝よう」
そう思った時に返信がきた。
(あっ見てたんだ)
<『味噌煮込みうどん』旨そうですね、今夜は冷えるから身体温まってよかったです。次の週は 東北 秋田県へ出張です>
すぐにまた返信を打つ。
<秋田ですかぁ寒いんでしょうねぇ~雪、どのくらい積もってるのかな?今度 写真送ってください (=´ー`)ノ ヨロシク>
こうして会話をしていることがなんだか不思議な感じがした、こんなにも近く感じられるのに・・・すごく遠くにいるような。
その後もふたりのフェイスブックでの会話は続いていった。
<今日も寒いですね ヌクヌク♪(*  ̄)√ ̄\ ←コタツ 昨日、会社の帰りにバーゲンでマフラー買っちゃいました♪>
<今夜 鎌倉にも雪が少し積もりましたぁ 雪化粧をした鎌倉の街も好き>
堤部長はいつも、どこにいても返信をしてくれた、私たちの距離が少しずつ近くなっているように思いたかった。
<秋田は気温-3℃です、外は吹雪いています、今夜は接待で秋田の地酒を飲みました。旨かったなぁ(仕事ですけどね・・・)>
<雪化粧をした鎌倉かぁ キレイなんでしょうね~どの季節が好きですか?>
「亜美、なんだか最近楽しそうねぇ~何かいいことでもあったの?」
ミカンを食べながら母が訊いた。
「ん?内緒・・・」
「そぉ、ミカン、食べる?」
「お母さんは・・・どの季節が好き?」
「そうねぇ~冬はミカンとかリンゴとか、新潟の洋梨ル・レクチェも美味しいわよねぇ~」
「フルーツじゃなくて・・・」
「春、やっぱり春がいいわねぇ~」
そう言って2個目のミカンを口の中に放り込んだ。
「そうよねぇ~やっぱり春、桜の季節がいいわ」
「私も・・・私も春が一番好き」
<鎌倉の雪景色も好きだけど、やっぱり春の鎌倉、桜の咲く鎌倉が大好きです♪>
返信してお風呂に入る、バスタブに浸かりながら目を瞑る、鎌倉の桜並木を手をつないで歩くふたり・・・そんなシーンが目に浮かぶ。
(堤部長はどんな季節が好きなんだろう?)
もっと、もっと彼のことを知りたい、そして確かめたい・・・そう思い始めていた。
<堤部長は今年初詣に行きましたか?私は娘とふたり、毎年 鶴岡八幡宮に行ってます。今年は『おみくじ』引いたら 大吉 だったんですよぉ (⌒^⌒)b>
<初詣は 近所の神社に行きました おみくじ私も大吉でした 今年もいい年になるといいですね娘さんはお幾つですか?>
(近所の・・・堤部長のお宅は、確か 練馬区、プロフィールにはそう書かれていたっけ)
堤部長にしては珍しくプライベートなことを訊いてきた。
(遥って16?17歳?になったのかな?)
私は、今までは出来るだけプライベートなことは書かないように、訊かないようにしてきた。
自分が傷つくことが怖かったから・・・そぉ、私は逃げていた。
私は思い切ってありのままの自分について書くことにした。
<娘は高校2年生です 一緒に住んでいませんけど、留学先のハワイから帰ってきて一緒に初詣に行きました。冬休みが終わって帰っちゃったんで今は少し寂しいです(´_`。) >
こうしてふたりはお互いの孤独を埋めるかのようにフェイスブックに想いを綴っていく。
21時、そろそろお風呂にでも入ろうかと思っているとの着信iPhoneの着信音が鳴る。
「あっ、お母さん、私・・・」
「遥?どうしたの?」
(遥が電話をしてくるなんて、きっと何か特別なことがあったんだ・・・)
iPhoneを強く握り締める。
「うん・・・堤さんって?」
そう言ったきり遥は沈黙して何も話さなかった。
(そうか・・・私と堤部長のウォールって遥も見れるんだ)
遥が私を心配して電話をしてきたことがようやく解かった。
「会社の、そう、今 働いてる会社の人」
「 そぉ 会社の人なんだ、お母さん・・・」
「ん?なに?」
「もう私も子供じゃないんだから、お母さんも自分の気持ち、ちゃんと確かめなくちゃダメよ」
「なによぉそれ、生意気言って・・・」
「じゃあね~私、これから授業だから」
そう言って電話は切れた、遥は最愛の娘で、最高の親友で相談相手でもあった。
遥が少し大人になって、私を心配してくれたことがすごく嬉しかった。
<今 羽田空港です 20時の便で秋田へ出張です 何とか飛べそうです 金曜日には戻ります>
堤部長のウォール、友達は相変わらず私一人、そういう私も遥と堤部長のふたりしか友達はいなかった。
「秋田かぁ~」
「秋田って言えば、やっぱり『きりたんぽ鍋』よねぇ~」
私の独り言に母が勝手に反応してきた。
堤部長は月の半分以上は出張に出ていた、逢えるのは月曜日くらい?家族って・・・堤部長は寂しくないの?食事は?きちんと食事を取っているのか?そんなことをつい考えてしまう。
(バカみたい・・・そんなの、奥さんでもないのに)
金曜日、堤部長は秋田から帰ってくる、でも会社に帰ってくるかはわからない、自宅に直帰することだってある。
<堤部長(* ^-^)ノこんはんわぁ♪秋田出張はいかがですか?あまり飲みすぎないでくださいね (=^~^)o∀>
金曜日、天候が悪くて飛行機だって欠航になったり、遅れることだってある、そう思いながら私は時々 堤部長のデスクに目を向けて会社に戻るのを待っていた。
17時近く、グレーの厚手のコートを着て 両手いっぱいに荷物を抱えて堤部長がオフィスに入ってきた。
私は努めて冷静に、PC画面を見ていた、一瞬目が合う、堤部長は大きく息を吐いてオフィスを見渡した後、コートを脱ぎデスクに座った。
オフィスには数名の派遣社員しかいなかった。
私はオフィスを抜け出してエレベーターでエントランスホールに向かいスターバックスに入る。
「こんにちは~」
カウンターに立つ…店長さんらしき人は微笑んでオーダーを待っている。
「あのぉ~ 堤部長が、いつも注文するものを・・・」
「はい・・・えっ?」
店長さんは一瞬驚いて様子で。
「本当はいけないんですけどね、お客さんのこと、独り言ですよ」
と言って続けた。
「午後疲れている時はチャイティラテのホットを良くご注文されるかなぁ」
そう言って微笑んだ。
「じゃあそれ・・・お願いします」
私は即座にそう言って笑った。
「はい、トール チャイラテ~」
店長の声が店内に響く。
チャイラテを持って急いでオフィスに戻る、堤部長はデスクでPC画面を凝視していた。
私は、その横に立ち声をかける。
「堤部長、お疲れ様でしたぁ」
そう言って買ってきたチャイティラテをデスクに置いた。
チャイティラテの香りに気づいたのか?部長は少し動揺した様子で私の顔を見た。
「えっなんで?これ ありがとう」
そう言ってチャイティラテを美味しそうに一口飲んだ。
「スタバの店長さんに訊いたんです、午後 疲れている時 堤部長はホットのチャイラテだって 」
堤部長の口元が少し緩んだ、そんな気がした。
私は、自分のデスクに戻ろうとする。
「あぁ、ちょ、ちょっと待ってて・・・」
そう言って、堤部長はデスク下の手提げ袋から何やら取り出した。
「これ、秋田の・・・『きりたんぽ』それと、これ、頂き物だけど・・・稲庭うどん、『きりたんぽ』は余ったら冷凍して」
「え?いいんですか?こんなに?・・・」
「あぁ、全然・・・問題ないから」
「部長のお宅の分は?」
「大丈夫、うちは・・・問題ないから」
堤部長は少し寂しそうにそう言った。
私は笑顔で自分のデスクに戻っていった(また、重い・・・)
10メートル先のデスクに目を向けると堤部長が私の買ってきたチャイティラテを美味しそうに飲んでいる姿が見えた。
私はその姿を見ていて、自然に微笑んでいて、そしてすごく幸せな気持ちになっているのを感じていた。
堤部長と視線が合う。私は、そのな気持ちに少し恥ずかしくなって、髪を左耳にかけながらPCに目を向けた。
週末は母に『きりたんぽ鍋』を作ってもらおう、そんなことを考えながら、オフィスを後にする。
家に着くと母が『きりたんぽ』を見つけ喜んでいた。
「なに~本当に?『きりたんぽ』買ってきちゃったの?比内地鶏のスープも入ってるわよぉ、明日は『きりたんぽ鍋』ね」
「ん?あれ?なに稲庭うどんもあるじゃない~亜美って秋田出張?だったの?」
「そんな訳ないじゃない・・・頂いたのよ、お土産」
「ふ~ん、もしかして」
「なによぉ」
「味噌煮込みうどんの人?」
「なに?それ」
「そうなんだぁ~」
そう言って母は嬉しそうに微笑んだ。
夕食を済ませ洗い物をしていると返信があるのに気づく。
<昨日は午前2時 まで飲んでしまいました 秋田の地酒 旨かったから(少し反省しています)お土産(さっき渡したけど)『きりたんぽ』にしました 1本1本炭火で手焼きしているお店で熱々の焼きたてを買いました。牛蒡と鶏肉も忘れないで地元ではセリを入れるみたいだけど あとレシピの冊子にも書いてあるけど、『きりたんぽ』は煮すぎないように、また写真送ってください♪>
堤部長が『きりたんぽ』が焼きあがるのを待っている姿が、どうしても想像できなかったが、美味しい『きりたんぽ』をわざわざ買ってきたことが良くわかった。
(私のため?私だけの?)
またそんなことを考えてしまう。
「お母さん、レシピ」と言いかける。
「これでしょ?明日楽しみにしていてよぉ」
そう言ってレシピを振って見せた。
土曜日の夕食、土鍋から食欲をそそそる醤油ベースの美味しそうな香りがリビングに広がっていく。
「そろそろ・・・いいわね」
そう言って母が鍋に『きりたんぽ』を入れた。
「あっ写真、写真」
そう言ってシャッターを押した。
「さぁもういいわ、食べましょう!」
母はそう言ってお椀に熱々の『きりたんぽ』よそった。
「んぅ~ん美味しい~」
母が満足そうに言った。
「ホント美味しい~」
『きりたんぽ』はモチモチで比内地鶏のスープはコクがあって牛蒡もスープを吸っていい感じだった。
「あっ写真、撮っとこ、お母さん」
「はい、はい」
そう言って箸を置いた。
余りの旨さに鍋は半分以上なくなっていた。
「ハイ撮るわよぉ~ハイチーズ」
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