第15話 ジャンクショップにて
翔太とケイが遭遇したのと同時刻。不穏な空気に包まれていたのは、文化会館の中に店を構えるジャンクショップであった。
「こちらに片山翔太と小宮絵真という人物が来なかったか?」
威圧感を与える鋭い眼力を持つ男性が、店のカウンターに立つ親子に尋ねる。その男性は管理公社警備部の人間であった。紗代と忠司の親子はそろって眉を寄せ、相手を訝しむ視線を露骨に放つ。両者の視線が空中で混ざり合い、そして沈殿していき空気を重たくしていく。
「朝店に顔を出してきたくらいです」
「早朝の棚卸しを手伝ってくれたんだ」
紗代と忠司はそれぞれ答える。しかし炯眼の男性は、表情を変えることなく矢継ぎ早に次々と質問を投げかけてくる。その管理公社の態度に、紗代は不信感を募らせられずにはいられなかった。
そもそも、管理公社の様子が明らかにおかしいのである。
ただの聞き込みであれば、昼前に来たとき同様二人で十分である。しかし現在は店内だけでも五人。更には紗代の位置からでは見えないが、恐らく店の前にも数人の管理公社警備部の人間が待機しているようである。これがただの聞き込みでないことは明白であり、疑念を禁じ得なかった。まるで犯人確保のようである。
どうやらあのSDカードは、ただのSDカードではないようだ。これだけ大事になってしまうくらいに、あの中に入っているものが重要なのだろう。
「あの、確認しますけど、これは遺失物の捜索ですよね?」
「ああ。そうだ」
紗代は相手を刺激しないよう遠まわしに管理公社の真意を探ろうとするが、炯眼の男性は、それがどうした、と言わんばかりに表情を変えずに返事をする。紗代はかれこれ違う言い回しで相手の真意を探ろうとしたが、それに対する答えはどれも似たようなもので、要領を得ないものであった。
「それより、今片山翔太と小宮絵真は何処にいる?」
そして炯眼の男性は、終始翔太と絵真の所在を聞いてくるのであった。
――もう絵真ちゃんまで突き止めたの!?
紗代は管理公社警備部の有能さに驚きつつも、感心せざるを得なかった。昼前にかなりぼかして説明したはずなのに、その数時間後には名前まで突き止めているのである。その捜査手腕は伊達ではないようだ。
――でもそれは、もうどうしようもないこと。過ぎたことにとらわれないでこれからの出方を考えなければ。
翔太たちを店ではなく自宅に匿ったことが結果的に功を奏した。紗代はそのことを心の底から安堵するが、その態度を相手に悟られないよう表情だけは崩さなかった。
今紗代にできることは、翔太と絵真に伝えた通り、管理公社の人間を可能な限り足止めすること。そしてそれは即ち、彼らをこの店から引き上げさせないことである。紗代は粘り強く相手に質問を投げかけ、そして相手の質問を適度にいなす。なおかつ要所要所に相手が食いつく話も盛り込まなければならない。そのことは決して容易なことではない。しかし仲良くなった友人のため、そして幼馴染のために、紗代は限界まで頭の回転を速くする。
――せめて、夕方まで……。
紗代は横目で店内の時計を見やる。もうすぐ夕方の時間であり、地下駐車場のシャッターが開く時間帯である。管理公社警備部は、このジャンクショップに翔太と絵真がいるとあたりをつけたからこそ、これだけの人数を今ここに集めたのである。もしかしたら、まだ翔太と絵真が丸の内エリアに向けて池袋を出発しようとしていることまで嗅ぎつけていないのかもしれない。どうせ出口のところに待機しているシャッター開閉役の管理公社の人間に見つかってしまうが、もしかしたらまだ普通に通過できるかもしれない。
ただ、今ここで翔太たちが池袋を離れることが露見してしまえば、管理公社警備部は地下駐車場の出口全てに人員を配置して外に出る車に対して検問をするだろう。そうなってしまえば、翔太たちは池袋を出ることができない。しかし見方を変えれば、その時間まで悟られなければ何も問題はないのである。そしてその可能性の一端を握っているのが紗代である。
紗代は自分の役割を再認識し、管理公社警備部の炯眼の男性に向かい合う。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます