第16話 地下駐車場にて


 地下駐車場のシャッターが開いて数分が経過したころ、地下駐車場を走る人物がいた。それは翔太の母親である明美であった。


 先程、地下駐車場に下りてきたとき、聞き込みをしている管理公社警備部の人間に捕まり、明美はSDカードについて知っていることを話してしまった。とはいっても、実際明美が知りうる情報は昨日までのことである。


 SDカードが池袋のジャンクショップに売られているという噂を聞いた小宮絵真という少女は、片山親子の車に乗せてもらって池袋に行き、ジャンクショップにて目的のものであるSDカードを購入することができた。購入目的はデジタルカメラに使用するためであり、その後片山翔太と夏目紗代と共に試し撮りとして居住区内を撮影してまわった。しかし途中で容量を満たしてしまったために撮影ができなくなってしまったので、SDカードの内部データを整理するためにSDカードを読み込む機材を求めたが、当てが外れてしまう。その日はそこで打ち切りにし、翌日ジャンクショップを覗いてみてみようとのこと。


 明美が知っているのはここまでであり、これ以降、今日の出来事については把握していなかった。


 そのことを聞き出した管理公社警備部の庄司は仲間に連絡し、合流するためか明美を置いて何処かに向かってしまった。


 その真剣な様子から、明美はようやく事態の深刻さを知った。


 管理公社警備部の不穏な動きに明美は名状し難い心の圧迫感に襲われ、それを振り払うために今現在この街で起こっている出来事を探るろうと行動する。離れていく庄司たちと一定の距離を保ちつつ、気づかれないように尾行する。


 庄司たちが向かったのは、文化会館にあるジャンクショップであった。既に仲間が集まっており、物々しい雰囲気を放っていた。明らかに事件の重要人物を確保しようとしていた。


 そして丁度地下駐車場のシャッターが開く時間になったころ、管理公社警備部の集団が慌ただしく動き始めた。その放たれる号令から、翔太と絵真が地下駐車場にいてこれから池袋を出発して丸の内に向かうことが発覚したようだ。実際に地下駐車場に向かう人、地下駐車場に待機している仲間に連絡を取る人、丸の内エリアの管理公社に連絡して待ち伏せするよう指示出す人と、集団はそれぞれの役割を全うする。


 翔太がいかなる理由で管理公社に追われているのかはわからないが、息子が追われているという事実を明美は明確に理解した。明美は管理公社警備部の観察を止め、集団が乗り込んだエレベーターとは別のエレベーターに乗り、再び地下駐車場に向かう。そして明美は単独で翔太を追いかけるため、自身が所有する車に向かって走り、現在に至る。


 ――翔太は何やらかしたんだ? でも、そんなことはどうでもいい。アタシがゲロったことで、翔太に迷惑かけちゃった。親として失格だ。だけどまだ失敗は取り返せる! 自分の失敗を、自分の息子に尻拭いさせてたまるかッ!


 自責する明美は、息子である翔太を助けることだけに突き動かされる。


 そして自身の所有する車に到着する。そのとき、


「明美。よかった、会えて。ちょっと話が――」


「ケイか。悪いが今急いでいるんだ! あとにしてくれ」


 何故か明美の車の近くに佇んでいた転売屋のケイに声をかけられたが、明美はそれを強引に遮る。そして鍵を取り出してSUVに乗り込み、そのまま発進する。


「ちょ、ちょっとアンタ! 待ちなさいよッ。なんなのよ、もう!」


 車の窓越しにケイの野太い女口調を聞きながら、明美は地下駐車場出口に向かう。


 地下駐車場出口には、管理公社警備部による検問が急遽行われていた。どうやらまだ翔太が池袋を発っていない可能性を考慮しての行動のようだ。簡易的なゲートが設けられ、出入りする車を一度停止させているようだ。


 幸いにも、停止させられていた車が丁度発進したため、邪魔になるものは設けられたゲートのみとなった。管理公社警備部の人間は皆近づいてくる明美の車に注視しており、そして停止するよう警告をしてくる。しかし明美はその警告を無視した。むしろスピードを上げ、検問に突っ込んでいく。


 検問をしている人間は、明美の車が接近してくるに連れ警告する口調を強くするが、全くもって止まる気配のない暴走車に危機感を覚えたのか、瞬時の判断で散り散りに退避していく。そうして人が捌けた検問を、明美は強引に突破。簡易ゲートを蹴散らす。先に検問を抜けた車を無理矢理追い越し、地下駐車場をあとにする。そのまま近くの入口から首都高速道路に入り、丸の内方面へ向かった翔太たちを追いかけていった。


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