第11話 図書館の聞き込み
池袋エリアの居住区である旧サンシャインシティ。その四つの建物のうちの一つであるワールドインポートマートビルの四階は、興津の住居であると同時に図書館でもあり、更には分校の教室でもある。昼前である現在は、当然授業中である。分校故に生徒人数が少ないうえに年齢もばらつきが生じているため、授業形式は基本的に自習であり、興津がその場その場で個別指導をしていた。
翔太や紗代は実際に〝アマテラス〟暴走事故を体験しているが、現在池袋分校の半数以上の生徒は、事故を体験していない事故後出生した子供たちである。そのため数年前に翔太と紗代が分校を卒業した途端、生徒の平均年齢はグッと下がった。今現在は子供故の陽気さもあり、皆読書スペースである長机に座ってテキストを並べ、和気藹々と勉学に励んでいた。
「どうも先生。お勤めご苦労さまです」
興津が机から一歩距離を置いて生徒全員の様子を窺っていると、不意に子供ではない声をかけられ、そちらの方を見やる。すると図書館の入口の方からやってきた二人組の青年が視界に入る。一人は実際に興津に声をかけた、笑みを絶やさない軽率そうな青年。もう一人は女性受けしそうな端正な顔貌の青年であった。二人共管理公社警備部の腕章をつけている。
「皆さん。先生はしばらく管理公社の方とお話をしてきますので、皆さんはこのままお勉強を続けてください」
興津の歳の割には若々しい声は、大声ではないにもかかわらず賑やかな教室内でもよく抜けていった。それにより生徒の殆どは興味津々な視線で二人組の青年を見つめるが、興津の「ほら」と一言と共に手を叩くと、皆言いつけを守り再びテキストに視線を移した。
「お待たせしました。管理公社の方が私にどのような用件で?」
生徒から離れて青年たちに近づいた興津は、率直に尋ねた。
「いや実はですね、今我々聞き込みをしていまして、先生にも少しお話を伺いたいなと思いまして、お邪魔させてもらいました」
軽率そうな青年は、むしろ人を不愉快にさせるような笑顔のまま訪問の目的を告げた。
「聞き込みですか? 私が知っていることであれば協力いたします」
「先生助かります。それがですね、今SDカードを紛失したという届け出がありまして、その行方を探しているのですよ。ジャンクショップとかにも聞き込みしているらしくて、結構大々的に捜索しているのですよ」
「SDカード、ですか」
興津は昨夜、教え子である翔太と紗代、そして横浜から来た絵真の三人がここを訪れたことを思い出した。そして教え子たちの目的は、ジャンクショップで購入したSDカードの中身を読み込むことであった。
教え子たちのSDカードは、もしかしたら今管理公社が捜索しているSDカードと同一のものである可能性がある。その事実に、興津は不穏な気配を感じ取ったが、それを目の前の青年二人に悟られないよう表情には出さなかった。
「そんなに大規模な捜索を行うということは、かなり重要なデータが中に入っているのではないかと、思わず勘ぐりしてしまいますね」
「いやはや、先生もお人が悪い」
教え子が関わっているかもしれないので、少しでも情報が欲しい興津は軽率そうな青年に狙いをつけ、相手のペースに同調しながら会話の主導権を握って詳細を聞き出そうと誘導する。
「ここだけの話ですよ、先生」
そして興津の奸計は簡単に成功する。
「我々も詳しいことまではわからないのですが、どうやら、今の東京の機密がいろいろと入っているらしいですよ」
興津は聞き出して後悔した。話が予想以上に由々しき事態であったからだ。
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