きょうだい
––––ああ、本当に可愛い。
このまま妹にしてしまいたいくらい。
◆
電車に乗ってから三十分くらい。景色は街中を離れてどんどん田舎になっていく。見えるのは畑と田んぼばかり。いったいどこに向かおうとしているのだろう。
他に乗客はほとんどいない。ほぼ貸切状態の中、わたしたちはボックス席で向かい合うように座っていた。
渚さんはニコニコと微笑みながら、わたしを見つめてる。そんなに見られると恥ずかしいというか……ど、どこか変なのかな。
「…………」
「…………」
ど、どうしよう。何を話せば良いんだろう。
渚さんは何も言わないし、わたしの方から話すべきなのかな? 基本的に人見知りなのに、年上相手なんてハードルが高すぎるよ。
悩んでいるとふいに渚さんが口を開いた。
「彩花ちゃんは兄弟とかいるの?」
「い、いえ……一人っ子です」
「そうなんだ! わたしもそうなの!」
少し意外だった。なんとなく妹とか弟とかいそうな雰囲気だったから。お姉さんオーラがすごいというか。最初に会った時、わたしをいきなり妹扱いしたからそう思うだけかもしれないけど。
それにしてもやけに嬉しそうなのはなぜだろう。
「一人っ子って時々寂しくなることない?」
「それは……まあ」
生まれてこのかた一人っ子だし、もう慣れてはいるけど。やっぱり兄弟がいる子が少し羨ましく思うことはある。莉奈はお姉さんもお兄さんもいるし、家でよく遊んでもらっているのを見てきた。わたしも仲間に入れてもらって、兄弟がいたらこんな感じなのかなあ、と思ったこともある。
「でも、わたしは一人っ子で良かったと思います」
「……どうして?」
「……基本、人といるのが得意じゃないので」
わたしの場合、家族でさえもずっと一緒にいると疲れてしまう。両親は共働きだし、一人で家にいることが多い現状にはそれなりに満足している。別に両親が嫌いとかそういう話ではなく、単に近くに人がいると落ち着かなくなってしまうのだ。
いや、待って。いまの言い方だと……。
「って、誰かと遊んだりするのが嫌ってわけではないですよ! ずっと暮らしていくって考えたときに、どうなんだろうって考えてしまうだけで」
「大丈夫よ。そういうこともあると思うわ」
優しく微笑んでくれる渚さん。誤解されてないといいんだけど……言い方が悪かったかな。うう、またやらかしてしまった。
友達と遊ぶのは好きだし、渚さんと一緒にいるのも好きだ。心の底から楽しいと思う。
だけど一人になったとき、安心感を覚えてしまうのもまた事実なのだ。それを分かってもらうことは非常に難しい。
––––これが原因で何人もわたしから離れて行った。
渚さんには離れて行って欲しくない。
少し落ち込んだように俯く渚さん。
「でも……少し残念ね」
「ち、違うんです!」
「ううん。私に彩花ちゃんみたいな可愛い妹がいたら、きっと楽しかっただろうなって」
渚さんは悪戯っぽく笑いながら、そう言った。
特に深い意味なんてないのだろう。だけど。
「か、かわ……かわっ」
お世辞に決まっているのに、本気で照れてしまう自分が情けない。顔が熱くなるのを感じる。
そんなわたしを見て、渚さんはくすくすと楽しげに笑う。絶対にからかわれてる。
「し、知りません」
「ごめんね彩花ちゃん。だけど本当にそう思うのよ?」
こうしている間も電車はわたしたちをどこかに運んでいく。
景色は移り、そして潮の香りが混じる。
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