ルッカと偉大なる魔王さま




 ルッカは悩んでいた。


 新魔王サタンが魔界に降臨し早一ヶ月。

 新魔王誕生の公布にサタンの戴冠式も滞りなく済んだ。

 公布により集まった魔界全土の魔族たちは、新たなる魔王のご尊顔を拝し、その凄まじい威圧感に震え、大歓呼をもってかの王を迎え入れた。

 サタンの名が連呼され魔界中に響き渡り、その熱狂は大地すらも揺るがした。

 あの時の光景は、脇に控えていたルッカですらも感動でこの身が打ち震えるほどだった。


 だが。


(あの日以来、魔王さまがずっと何かを思い悩んでいらっしゃる……)


 サタンの側に仕えるルッカにはそう感じられた。


 王の悩みは臣下の悩みだ。

 いや、あるいはそれ以上と言っていい。

 王を悩ませるなど、臣下がしてはならないからだ。


 何か必要な物があるならばすぐに用意する。

 何かしろというのなら何でもする。

 少なくともルッカはそのつもりだ。


 だがサタンは何も語ってくれない。

 玉座に深く腰かけ、ひたすら物思いに耽っている。


 しかし、それに不満を述べてはいけない。

 王の気持ちを察するのも臣下の務めだ。

 注意深く王を観察すれば、彼が何を考えているか自ずと分かるはずだ。


(私が必ず魔王さまのお悩みを解決してみせる!)


 ルッカは魔王の間の柱の陰からサタンのことを観察しながらそう思った。


 ちなみに、戴冠式直後から彼女が彼の観察を始めて、もう二週間になる。

 魔王の間、食堂、寝室は言うに及ばず。

 果てはトイレの入り口まで見張り、サタンの一挙手一投足を観察し続けた。

 彼女のある種の奇行に、周りの者たちは怪訝な顔をしていた。


 が、四天王であるルッカの行動を咎められる者はおらず、結果として彼女のある種ストーカー行為は見過ごされてきた。


(今日の午前中のため息は二十一回。トイレは二回、平均三分三十二秒。朝食に引き続き、昼食も残されている様子。特定の食品を残しているわけではないため、好き嫌いがあるわけでもなし)


 ルッカは手許のメモを見ながらサタンの行動を思い返す。

 彼はここ最近、毎日食事を残していた。

 ため息の回数も日に日に増えている。

 やはり彼が何かに悩んでいるのは間違いない。


(魔王さまが悩まれていることとは、いったい何だ?)


 ルッカは何度目か分からない自問を繰り返す。

 魔王とは魔族全体の象徴でなければならない。

 その点においてサタンは歴代魔王と比べても屈指の魔王の風格を備えていた。

 戴冠式にて、サタンの姿を見た魔族が残らずその場で大地にひれ伏したことから見ても、それは疑いようのない事実だ。


(魔王さま……)


 ルッカは柱の陰からサタンの顔を見つめ、ぽっ、と頬を赤らめる。

 やはり何度見ても、かの王のご尊顔には惚れ惚れする。


 目にする者を射殺さんばかりの鋭い視線。

 敵の喉笛を噛み切るためにあるような牙。

 ただ息を吐くだけで凄まじい威圧感を発する魔界の新たなる王。

 憐れな侍女がその顔をうっかり直視してしまい、その場で失禁、泡を吹いて倒れるなどもはや日常茶飯事と化した。


 四天王であるルッカですら、油断すると意識を持っていかれそうになる。

 彼女が遠くからサタンを観察しているのも、実はそういう理由だ。

 近くにいすぎると冷静さを保つ自信がない。


(嗚呼! あの方の欲望の赴くままにメチャクチャにされたい!)


 ルッカは身悶える。

 遠くから見ても、結局冷静さを失っていることに、彼女は気づいていない。


(あんな恐ろしげな表情で、いったい何を考えていらっしゃるのか……いえ、あれは憤怒? もしや、何か魔界の現状に不満が……)


「―――!」


 そこでふと、ルッカはピーンときた。


(分かった)


 分かってしまったかもしれない。

 サタンの悩みが。


 考えてみれば当然のことだ。

 偉大なる魔王が、この魔界の――いや、この世界の現状に満足しておられるはずがない。


(こうしてはいられない!)


 ルッカはすぐさま柱の陰から出ると、そそくさと魔王の間から出て行った。





         ▽





 それから数日後。


「……」


 今日もサタンは恐ろしげなため息をつきつつ、悶々と悩み続けていた。


(……そういえば、近頃ルッカさんを見ないな)


 悩み事の最中、ふとサタンはルッカのことが気になった。


 彼女のストーカー行為には彼もとっくに気づいていた。

 特に彼女が声をかけてくるわけでもなかったので、彼も何も言わなかったのだ。


 しかし、このところルッカはサタンの前に姿を見せなくなっていた。

 急にどうしたのだろうか?

 サタンは彼女の行方が気になったが……それ以上に大きな悩みがあったため、そのことを考えるのはあと回しにした。


(まさかこんなトントン拍子に魔王になっちゃうなんて思わなかったなぁ)


 魔界に落ちて早一ヶ月。

 ルッカの行動が迅速だったのも理由のひとつだが、あらゆる魔族が誰ひとりとしてサタンが魔王と信じて疑わなかったのが何よりも大きい。


(まぁ、確かにこの顔じゃ仕方ないかもしれないけど)


 サタンもあれからいろいろと考えて、どうやら自分があの時助けようとしたコモドオオトカゲと合体してしまったらしい、という程度のことは見当がついていた。


 もちろん、明確な原因まで分かっているわけではない。

 ただ現状の自分の姿を見る限り、どうもそうらしい、というのは分かった。


 また、ルッカたちの言葉の端々から、自分が魔界で特別な存在であるドラゴンと勘違いされているのも分かっていた。

 それが魔王と勘違いされた理由のひとつでもあることを。


(でも、僕も悪いよね。すぐに誤解を解こうとしなかったし)


 あるいはすぐに、自分はドラゴンと何の関係もない、と言っていたら、サタンは魔王と誤解されなかったかもしれない。


 だが、できなかった。

 それは、天界でインフェリアから、魔族の恐ろしさを教えられていたからだ。

 最初はむしろいつ自分が人間とバレて、彼らに殺されるかとビクビクしていたくらいだ。


 しかし、疑われることなく一ヶ月が過ぎた。

 その間、ルッカたちにお世話されて魔界で生活してみて、サタンの中で少しずつ魔族に対する考え方が変わってきていた。


(魔族の人たちもキチンとルールを守って暮らしてるし、ルッカさんもすごくやさしいいいヒトじゃないか)


 魔族は話に聞いていたような残酷な種族ではなかった。

 少しばかり乱暴なところもあるが、理性的な面もあるし、話だって通じる。

 それなのに「魔族」というだけで偏見を持ってしまった。


(偏見の目で見られたら誰だって傷つくのは、僕が一番分かってることなのに)


 サタンは自己嫌悪でまた重いため息をつく。

 傍目には「さーて腹が減ったから誰か取って食っちまおうかな」というセリフが聞こえてきそうなため息だが、実際は己の過去の行いを恥じているだけだ。


(うん。やっぱり僕は人間だってルッカさんたちにちゃんと言おう。それからウソをついたことを謝るんだ。大丈夫。話せばきっと分かってくれるよ)


 長い煩悶の末、サタンはついに決意した。

 早速ルッカを探すために魔王の間から出る。


「あ」

「あ」


 廊下に出たサタンは、早速コボルトの召使いと出くわした。


「あ、あわわ、ま、魔王さま……」


 犬と人間の子供が合体したような魔族のコボルトは、サタンと鉢合わせた瞬間全身を緊張させた。

 その尻尾は極限まで膨らみ、全身の毛は恐怖で逆立っていた。


 サタンはちょうどよかったので、ルッカの行方をそのコボルトに尋ねることにした。


「あの、ルッカさんがどこにいるか知りませんか?」

「ししし知りません!」

「そうですか」


(早くルッカさんに会って謝りたいのに)


 サタンは少しガッカリする。

 彼の表情が曇ったのを見て、コボルトは魔王を落胆させてしまったと恐れおののいた。


「スミマセン! 今すぐ探してきます!」

「え、いや、自分で探……」

「どうか殺さないでくださあああい!」


 サタンの話も聞かず、コボルトはダッシュで廊下を走り去っていった。


(行っちゃった……どうしよう?)


 自分の足で探す予定だったが、ヘタにこの場から動くと行き違いになる可能性がある。


「う~ん……」


 しばし考えた末、サタンは魔王の間に引き返す。

 あのコボルトがルッカを連れてきてくれるのを待つことにしたのだ。





         ▽





 外から帰ったルッカはいきなりコボルトに泣きつかれた。


 最初は意味が分からなかったが、サタンが呼んでいるという話を聞くと、すぐにその足で魔王の間へと向かった。


「魔王さま!」


 彼女は玉座に座るサタンの足許へ進み、跪く。


「私をお探しだったとのことで。お手を煩わせてしまい、申し訳ありません」

「いや、いいよ。それより……」


 サタンはルッカが帰ってきたら当然、自分が人間だと話すつもりだった。

 だが彼女が外から連れてきた客人たちを見て、ピタリと言葉を止めた。

 ルッカとともにやってきたのが、どれも見るからに屈強な体をした魔族たちで、みなただならぬ雰囲気を醸し出していたからだ。


「えっと……彼らは?」

「はっ! この者たちは我が魔王軍でも選りすぐりの将軍たちでございます!」


 サタンの質問に、ルッカはハキハキと答える。


「???」


 だがサタンの疑問は増える一方だ。


(魔王軍? 将軍? 何でそんなヒトたちを連れてきたんだろう?)


 将軍たちもルッカにならって臣下の礼をとる。

 床に跪き、深く垂れた頭から、彼らの忠誠心の強さが窺えた。

 それだけならこの前の戴冠式で見た光景だ。


 だが、なぜ今この将軍たちを城に集めたのか?

 サタンはルッカの意図を量りかねた。


「何でその将軍たちをここへ?」

「はっ! 無論、魔王さまのためです!」


 ルッカは顔を上げ、キラキラとした目でサタンを見上げた。


(僕のため?)


 サタンには何のことか見当もつかないし、頼んだ覚えもない。

 彼の困惑をよそに、ルッカは続ける。


「恐れながらここしばらくの間、魔王さまのご様子を陰から窺っておりました」

「ああ、うん」


 そのことには気づいていたが、話の腰を折るのもあれなのでサタンは生返事を返した。


「その結果、私なりに魔王さまの悩みの種を取り除こうと、大急ぎで各地を回り、急いで魔王軍を再編して参ったところでございます」

「…………」


 確かにサタンは自分がウソをついていることに悩んでいた。

 そしてルッカはサタンが悩んでいるのを見抜き、彼のために奔走してくれていたらしい。

 そのこと自体は無論嬉しい。


(だけど、何で軍隊?)


 サタンの悩みを解決するのになぜ軍隊が必要なのか?

 いくら考えてみても、サタンにはルッカの行動の真意が汲み取れなかった。


「……それで、その魔王軍で何するつもりなの?」

「決まっております!」


 ルッカは拳を握り締める。



「今こそ我らが魔王さまの御名の下、憎き人類と神々を根絶やしにするのです!」



 ルッカの大音声は魔王の間に深く響き渡った。

 集まった将軍たちも力強く頷いている。


「……へ?」


 呆気に取られているのはサタンだけだ。

 ルッカはさらに続ける。


「魔王さまが悩まれるのも当然です! 我らが宿敵、ゴミ虫以下の人類が未だこの地上に蔓延っているのですから! この世界は天も地も全て魔王さまのものでなければなりません! その程度のことも察することができず! 我ら一同面目次第もございません!」

「え、いや……」

「しかしお任せください魔王さま! かつては先代魔王軍の頭脳として、幾度となく人間軍を打ち破ったこのルッカが、魔王さまのお手を煩わせることもなく、またたく間に人間界を蹂躙してご覧に入れます!」

「あ、あの……ちょっと待って」


 サタンはルッカを止めようとする。

 だが、彼女はもはや人の話を聞いていなかった。


 魔王軍四天王ルッカ=ルッカ。

 彼女は優秀だが、思い込みの激しいところがあった。

 その上、魔王に対する心酔ぶりときたら魔界に右に出る者なく、しかも行動力に溢れているため、一度そうだと確信を持つともはや力尽きるまで止まることはない。


「さあお前たち! 今すぐ軍議だ! 人間どもに次の春を迎えさせるな!」

「「「おおおおおお!」」」


 おまけに弁が立つのも、この場合は厄介だった。

 彼女の演説に将軍たちの士気はすっかり昂揚し、人間界侵攻に完全に乗り気になっていた。


(ど、どうしよう……?)


 当事者であるはずなのに、サタンはもはや蚊帳の外だ。

 玉座の下で飛び交う物騒な話を聞きながら、サタンは内心でヒドく焦る。

 今更サタンが、やめろ、と言っても素直にみんな引き下がりそうにない。

 止めるなら止めるで理由を尋ねられるだろう。


(平和が一番だよ……って言ってもダメかな、やっぱり)


 お人好しなサタンでも、それでみんなが止まってくれそうにないことくらい分かる。

 かといって、このまま黙っているわけにもいかない。


 なにしろ彼女たちは人類と戦争をすると言っているのだ。

 何としてもそれは止めなければならない。


 しかし、ルッカが「宿敵」と言ったように、魔族と人間が長い間いがみ合っているのはサタンも知っている。


 だが、サタンは違うことも知っているのだ。

 魔族にもやさしいところ、いいところがたくさんあることを。

 彼らは決して誰とも分かり合えない存在ではない。

 話し合い、理解し合うことさえできれば、人類とも手を取り合えるはずだ。

 魔界で一ヶ月を過ごしたサタンには、その確信がある。

 魔族と人類は平和に仲よく暮らすことができる。


 それを不可能にしているのは、歴史だ。

 魔族は人間を憎むもの。

 人間は魔族を憎むもの。

 歴史が、そんな常識を――決めつけを――作ってしまっている。

 それは……とてもとても悲しいことだと、サタンは思う。


「ルッカさま。まずはこの国境付近の村を略奪し、拠点としてはいかがでしょうか?」

「そこはすでに廃村だ。奪っても意味がない」


 ルッカと将軍たちの会話がサタンの耳に飛び込んでくる。

 その廃村というのは人間界と魔界の境付近にあり、何度も魔族が襲ったため、人間たちが放棄してしまった村らしい。

 だが、実のところその村は元々魔族の村で、それを人間の軍隊が襲って占領したのだとか。


 つまり、国境線付近の、奪ったり奪われたりされ続けた村で、そのせいですっかり荒れ果てついには誰も住まなくなった悲しい場所だそうだ。

 人が住んでいたり、魔族が住んでいたりした村……。


(奪ったり奪われたりして傷つけ合うくらいなら、いっそのこと人も魔族も一緒にその村で暮らしていたらよかったのに……)


 サタンはそんなあり得なさそうな妄想を軽い気持ちでしてみたが。


「………………」


 逆に、何であり得ないのか、と思い直した。


 人間と魔族が一緒に住む村。

 もしそんな村があったなら。

 両種族は分かり合えるかもしれない。

 だが、そんな場所はこの世界にまだない。


(だったら……自分で作ればいいんだ!)


 サタンは思う。

 人と魔族がお互いに分かり合える場所を作る。

 それはきっと困難なことに違いない。


(でも、もしそんな村を作ることができたのなら……)


 人間と魔族が分かり合えることにみんなも気づくことができる。

 そうしたら。


(みんな仲よくできるはずだ!)


 サタンは大きく深呼吸する。


「……よし!」


 覚悟を決め、サタンは玉座から立ち上がった。



 カツンッ



 玉座は魔王の間の広間より高いところにある。

 広間に下りるには階段を使う必要があり、彼の踏み出した一歩の音は、思いのほか大きく室内に響き渡った。


「!?」


 ざわめき立ったのはもちろん軍議中のルッカと将軍たちで、彼女たちは不動だった魔王の突然の行動に声を発するのをやめた。

 一瞬で魔王の間は、シン……、と静まり返り、サタンの足音だけが聞こえるようになる。


 ところで、この時サタンはヒドく緊張していた。

 そもそも前段階でとてつもなく頭を悩ませていたし、考えをまとめてからは、それを彼らに対してどう説明し、説得するかで頭がいっぱいだった。

 そういう時の彼の顔面はこの世の何よりも恐ろしくなる。


 恐ろしい目には力がこもって血走り。

 震える牙はカチカチと獲物を求めるように音を立てる。

 元々の威圧感も相まって、その姿はまさしく殺戮を求める大魔王そのものだった。


「……!」


 ルッカも将軍たちも戦慄する。

 いつの間にか魔王の逆鱗に触れるようなことをしでかしたのかと、全員が背筋にツララを突っ込まれたような心持ちだった。


「……」


 ついにサタンは階段を降り切る。

 彼はそのまま歩を進め、ルッカたちが広げていた地図の前で立ち止まった。

 地図には魔界の全土と、国境付近の人間界が描かれている。

 サタンはその地図を見つめ――先程ルッカたちの話していた国境付近の人間の村を目に留めた。


 そして。


「人間界には……僕ひとりで行くよ」


 唐突なサタンの宣言に、一同は再びざわめく。


(ごめんなさい。みなさん、ルッカさん)


 そのざわめきを聞きながら、サタンは胸中で謝罪の言葉を述べる。


 彼のプランはこうだ。

 心苦しいが、今しばらく自分を魔王だと偽り続ける。

 そして、サタンは魔王として、人間と魔族が暮らせる村を作るつもりだ。

 そうやって人間と魔族が互いに理解し合える場所を作ることで、両種族の意識改革を促す。


 これは魔王が率先してやるからこそ意味があり、大きな効果が望める。

 サタンは世界平和のための一歩を、今ここで踏み出そうとしていた。



 一方、ルッカたちは混乱の極みにあった。

 なにしろ人間界――つまり敵地に、魔王が単身で向かうと言い出したのだ。


 あまりにも無謀。

 あまりに不可解。


 王の真意が分からず、臣下は彼を止めるべきなのか悩む。

 普通は即座に止めるべきなのだが……サタンの形相ときたら、ヘタなことを言えばこの場で八つ裂きにすると言わんばかりのもので、その恐ろしさが彼らの口を重くしていた。


 そんな中、ルッカはひとり前へ進み出た。

 感動の涙を滂沱と流しながら。



「さすがです! 魔王さま!」



 ルッカはひと際大きな声で叫ぶように言うと、その場でサタンにひれ伏した。


「……?」

「……?」


 何のことか分からないのはサタンも将軍たちも同じである。

 彼らは揃って、ルッカが何を言いたいのか、次の言葉を待つ。

 彼女はやはり涙を流しながら、歓喜に震えた声で続けた。


「人類ごときを滅ぼすのに我々の手など必要ないと! いえ、足手まといと! 魔王さま御自ら、おひとりで人間界を制圧してみせる……つまりそういうことなのですね!」


 ルッカの語ったサタンの真意(妄想)に、将軍たちはハッとし、続けて彼女と同様にその場にひれ伏した。


「まさかたったひとりで人類を滅ぼすおつもりだったとは……」

「我らの考えなど出すぎた真似だったようで……どうか平にご容赦を」

「あ、うん……」


 経緯はどうあれまずは戦争を回避できたわけだが、サタンはつい気の抜けた声を出し頷いてしまった。

 実際のサタンの思惑はどうあれ、こうして彼はさらに魔族たちの多大なる尊敬を集めることとなった。



 まぁ、それは置いといて。


 目指すは世界平和。


 サタンはその思いを胸に、その日から人間界へ行く準備を始めた。


 彼が人類と魔族の架け橋となるべく旅に出るのは、この一ヶ月後のことである。





□■□■ たちよみここまで □■□■

続きは本編でお楽しみください。



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