既に朽ちる時を待っていた
だが悪役なんてこの世にはいない。そう自称する者はもしかしたらいるかもしれないけれど、けれど誰も彼もが悪と認めうる悪などこの世にはいない。
よく言うだろう? いや、おれが聞いた気になっているだけかもしれんがまあそれはそれ。とかく、思うに「己の正義とは他者の悪徳」であり、それは逆説的に「悪とは正義の別の一面」ということだ。
そう、だから悪役なんてのは何処にも居ない。故に、正義の味方になんて誰もなれない。
さて、長々と前置きを失礼した。
詰まる所、おれは正義の味方ではない。そして貴殿らも正義の味方ではない。正義の味方でもない限り、赤の他人の心には寄り添えない。
人は誰しも自分本位だ。良くも悪くも、優先順位の一番は己でなくてはならない。そう生きている。
「貴方は、ぼくを止めないんですね」
「止める必要はあるまい。それが如何様な選択で在れ、それを選んだのは君自身なのだから」
「違いない」
微笑む少年のその腕には、錆びの浮いたカッターナイフ。ぐるぐると巻かれた白い包帯は否が応でも目立つものだね。その下にあるのは己で付けた創かい? いやそれとも、君を悪と定義づけした何処ぞの誰かにつけられた傷だろうか。
「何も知らない体を装って、ぼくが何をしたいか察しているんでしょう?」
──さあなあ、少年。おれにはとんと見当がつかないよ
「嘘吐き」
──そうさね、大人とは嘘を吐く生き物で、おれは大人だ。
少年。
そうだな、少年。君はもう諦めているんだ。両の目を覗いても其処に魂はない。そうなってしまったら、あとは
にんまりと笑ってやれば、少年は満足そうに微笑んで、何処かへと去っていった。
翌日。おれと彼が昨日話した交差点に花束が一つ。特に何の感慨もなくそれを見下ろして。さて、昨日出来なかった質問をしよう。
「では、改めて問うが少年。君は救われたかったのかい?」
勿論、答えは返ってこない。
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