Ep2-3

「君たちは本当にダメだね。ちゃんと6か月で訓練終えたの?」

 支部の中にある第31部隊専用の控え室の中で鬼門将一は満面の笑みで3人に向かい言った。その一言を言われた3人は背筋を伸ばしながら将一の話を頭にいれる。そして、照正と結芽だけが同じ部屋で聞いていた。他の隊員は将一が追い出してしまったのだ。

 照正は壁に背中を当てながら、頭に着けた隊長専用のネックウォーマー型C級装備をあるべき場所に直し髪をセットした。その後、彼はポケットの中からタバコみたいな物を取り出し、火をつけた。

「照、そんなもの吸ってたの?」

「薬だ。最近必要になった。服用方法が面倒だったから、医者に頼んでこの形にしてもらった。吸い方は親父のを見てたしな。」

「とりあえず、今はお説教タイムだから吸うな。」

と将一は怒鳴った。それに対し照正はすぐに吸うのをやめ、舌打ちをして腕を組んだ。将一はそれを確認すると大きく息を吸い、

「じゃあ本題に入るよ。」

と、キークが独房で聞いた声で

「まずはキー君、君は全く射撃がなってないね。止まっている的に当てるのと、動いていて、もっと言えば能力すら使ってくる相手に対して君の感覚で銃を撃つ行為は石を投げているのと同じだよ。そうだね・・・、君には近接戦闘が合っているじゃないかな。」

それを聞いたキークは軽く返事をして、自分の手眺める。そして将一は話を続ける。

「次にユーマ君、君はね・・・、型にはまりすぎ。訓練課程でやったことに忠実なのは悪いことではない。でもね、典型にはまった戦い方じゃ実戦では勝てない。」

まじすか、とユーマは呟きながら苦笑いをする。

「最後にエリカちゃん。君が一番問題だ。集中力と状況判断は君の先輩たち、最悪結芽ちゃん、いや、僕以上かもしれない。でもね、それ以外がダメすぎ。特に体力かな。」

それを言われた彼女は泣きそうな顔になった。それを見た照正が、

「おい将。あんまりうちの新人いじめるなよ。」

「いじめじゃないよ。」

彼は低い声のまま続ける。

「君ら3人はそこらの経験で強くなるような凡人にはない覚悟がある。訓練校での報告書を見たけど、ユーマ君はやれば伸びるタイプだろ。キー君とエリカちゃんはセンスがあるから活かせばきっと強くなる。」

それを言い終わると彼は途端に普段の声に戻り、

「そうだね・・・、修行するか!照、彼らのスケジュール教えてくれる?」

「は?ああ、昼間は学校行って、放課後は当直、夜は他の隊員と同じだ。」

「ふむ・・・。そうだ照、君の家直伝のあれ、なんだっけ?」

「直伝のタレか。肉に着けると旨いんだよ。」

そう照正が珍しくボケると皆がかたまり、結芽に

「そんな物ないよ・・・。」

と冷静なツッコミをされ、照正はため息をつきながら

「花川流銃術だろ。あれは血縁者以外に伝授するのはタブーなんだよ。」

すると将一は笑いながら言った。

「僕の知ってる花川照正はそんな真面目君じゃないんだけどな。」

すると照正は舌打ちをし、

「ばれなきゃいいか。結芽チクるなよ。で、誰に教えればいいんだ?」

「ユーマ君に、キー君は僕が剣術を教えてあげる。」

それに照正は少し驚いた表情になり、

「将、お前仕事は?」

「あー、キー君の監視。正式なやつね。」

それを言った彼の顔をみんなが見て、それからキークの顔を見た。そしてその固まった空気の中、彼は話を続ける。

「一番厄介なのはエリカちゃんだ。入って。」

彼はドアの外に向かって言った。するとゆっくりとドアが開き、そこには長く大きなカバンを担いだ副隊長のアルフレッドの姿があった。

「少将、言われた物を持ってまいりました。」

「ありがとう。説明は僕がするね。」

するとアルフレッドは長いカバンを開け、中から普段隊員が装備している銃とは比べものにならないくらいバレルの長く重量感のある銃を取り出した。すると将一は説明を始める。

「これは今開発中のB級装備、人類がまだ地球で生活していた頃に狙撃のためだけに製造されたスナイパーライフルっていう銃なんだ。えっと、この銃のモデルの名前は・・・、」

「L96です。」

と、アルフレッドが補足を入れる。そして将一は話を続ける。

「エリカちゃんは狙撃手としての素質は十分だ。足りないとしたらこの銃もち運ぶ筋力ぐらいかな。ちなみにこの銃はまだ開発段階で実用実験がまだなんだ。発砲時にどれほどの放射線が出るのか、C級装備でそれに耐えられるかもわからない。かなりに危険だけど、やるかい?」

全員がエリカの方を見た。エリカは大きく息を吸い、目を閉じた。


 私はなんでここに居るんだろう。キーク君の秘密を守るため。ユーマや結芽ちゃんの横に立つため。アザンから皆を守るため。どれが本当の理由かがわからなくなる。なぜだろう。私が訓練課程をクリアできたのは3人や照さんがちゃんと教えてくれたから。私自身の実力じゃない。ここに居る理由が見えなくなっていく。理由がないのに命を懸けて戦う必要があるのかがわからなくなる。あの銃を手にすれば被曝してしまうかもしれない。このまま戦い続ければ確実に敵にやられてしまう。目頭が熱くなる。涙がこぼれる。怖いから?悔しいから?わからない、わからない、わからない。なぜ、私がここに居るかがわからない。


 急に静かになった部屋の中で少女は膝をつき、泣き出してしまった。それを見てすぐに結芽が駆けつけ、大丈夫?といいながら背中をなでた。

「なに女の子泣かせてんですか?」

とユーマは将一を睨む。それを見て照正が、

「ユーマ、口を慎め。上官だぞ。」

「でも・・・。」

「それに将の言っていることは事実だ。おそらく、今のままでは確実に死ぬぞ。」

「じゃあ危険を冒してあの銃を握れと?」

「前線に立ちたければな。それが嫌なら、オペレーターや整備班もあるが・・・、」

決めるのはエリカだ。照正はあえてその言葉を言わなかった。それを察した将一は大きくため息をつき、また低い声で言った。

「明日まで時間をあげる。それまでに決めて報告に来て。」

そう言い残し彼は待機室を出た。


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