Ep2-2
数日後、彼らの初陣は早くもやってきた。第31部隊の隊員は全員C級,B級装備を装備した状態で輸送機の中に座っていた。緊張の空気が流れる中で機内放送が流れた。
「こちらオペレーターのマナ・クラインです。今回の作戦の概要を説明します。確認されたアザンは1体、能力は加速。第31部隊が先行し、第33部隊がバックアップに回ります。戦略や配置等は花川中佐にお任せします。」
すると照正は無線機のマイクをオンにし、
「加速の能力についてわかっていることは?」
「第35部隊の偵察隊の報告によると、自身はもちろんですが動いているものでしたら方向は変えられないものの、加速させることが可能みたいです。」
彼は了解とだけ返事をしてマイクをオフにした。そして、機内の隊員に口頭で言った。
「今回の目標はやや厄介な能力だが、暴走状態ならうまく扱えないと思う。ちなみに新人3人が初陣だ。新人だからだと言って戦場で甘やかす必要はない。」
照正は続けて今回の配置について個々に命令を出す。そんな中、新人3人は結芽を隊長に分隊を組むように言われた。初陣では完璧な判断をするのは厳しいので、結芽の指示のもとに作戦行動を実行することで戦場に慣れるためだ。
輸送機は現地に到着し、ハッチが開くとともに隊員は一斉に命令された位置に駆けていった。それに続き花川結芽分隊も飛び出し、命令された位置に走る。走りながらユーマが結芽に尋ねた。
「結芽!今回俺らはなにをするんだ?」
「今は分隊長、いやいい。作戦中は呼びやすいように呼んでいいよ。今回は援護射撃が重要な仕事。おそらく隊長がA級装備で動きを封じ、一斉射撃で一気に仕留めるはずですだから、私達は隊長が目標を拘束するまで、目標を隊長に近づけさせないのが最優先事項です。」
3人は頷き返事をした。そして、それを確認した結芽はさらに指示をだす。
「キー君は前に立って周囲を警戒。ユーマ君は後方の警戒。私とエリカちゃんで射撃をするよ!」
それを聞いて彼らは了解と返事をし、指定地点についてすぐに結芽の指示通りに2人は周囲の警戒を始め、結芽とエリカは射撃の準備を始める。しかし後方の警戒をしているユーマの切羽詰まった声に反応してその手を止めてしまった。
「まずい、アザンが来た!」
3人がその方向を見ると、そこにはこちらに走ってくるアザンと思われる影があった。そして、その影の速さは決して速くはなかった。
「まさかもう1体!?」
エリカが慌てて声を上げると、結芽が
「エリカちゃん、落ち着いて!キー君、ユーマ君応戦して!」
そう言うとすぐに彼女はマイクをオンにして、
「マナさん、アザンと接触しました!おそらくは今回の作戦目標ではありません。本隊は作戦通りに、こちらには第33部隊を寄越してください。」
その報告が終わるのと同時にアザンは2人に攻撃を仕掛けた。
「貴様らはこの世にいらない!!消えろ人間!!」
やはり暴走状態だ。二人は体を横に流すようにして避ける。敵の一撃は地面に当たり、亀裂を入れた。
「能力は筋力増強あたりか。」
そう結芽は呟きながら銃弾を敵に向かい放つ。エリカの放つ弾丸は正確に当たるものの、次を撃つまで時間がある。
「ユーマ!次、来るぞ!」
キークのその声とほぼ同時に敵の拳がユーマの方向へ流れる。そのタイミングで放った弾丸がすべて弾かれる。ユーマは転ぶようにしてそれを避けた。
「結芽、奴の能力は硬化だ!俺が能力を使って抑える!」
「ダメ!キー君の立場がなくなるよ!」
その結芽の叫び声に敵が反応して、ユーマが叫ぶ
「結芽、そっちに目標が・・・、」
その時には遅かった。目標の硬化した重い体が地響きを鳴らしながら彼女の数メートル先まで来ていた。とっさの判断でエリカとユーマは彼女の方に走り出し、キークは能力を発動させようとしていた。誰もが花川結芽の死を覚悟した。
それは一瞬だった。硬化能力を使用中だった目標の体は2つになり、切断面は砂のように崩れながら、その顔の目には光はなかった。その砂の塊を目の前に結芽は腰が抜けて尻を地につけていた。
「弱いねえ、君たち。」
その声はキークと結芽には聞き覚えがあった。声の主は日本刀を片手に無線機のマイクのスイッチを入れる。
「マナちゃん、こっちは片付いたよ。第33部隊は必要ないから元の仕事に戻してあげて。そうだ、照はうまくやったかな?この無線を第31部隊のオープンチャンネルに繋いでくれる?」
数秒後に大きく息を吸い、
「照生きてる?死んでる?」
と馬鹿にするように叫ぶと、
「うるせえ将!部外者はひっこんでろ!!」
「えー、僕が来なかったら結芽ちゃん死んでたよ?」
「わかったから、そのふざけた絡みはプライベートチャンネルでやれ!」
そんな通信は隊員全員の耳で響いた。そして、照正の舌打ちとマイクを切る音で皆の無線機は静かになった。
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