Ep2-1

7か月の月日が経った。今は年に2度開催される入隊式で、全てのコロニーの訓練校で訓練課程を修了できた者が白い式典用の軍服を着ながら整列している。皆が関係者席に家族が来ていたり、万が一家族をアザンによって失った者ですら誰かが必ずこの祝いの席に来てくれているらしい。こんなにも大切な人が簡単にいなくなる世界でも孤独な人間なんていないんだ、とキークは整列の中に並びながら思った。確かに彼は人間ではないが関係者席には親などの代わりに彼と同じ白い軍服を着た照正と結芽の姿があったからだ。そして、横にはユーマ、後ろにはエリカが笑顔で整列している。俺はたくさんの繋がりがなくっても、こいつらとの繋がりさえあれば十分幸せだ、とキークは思った。

 入隊式は円滑に進められた。その中で判明したのは会議の真ん中に居た男は元帥だったということだ。

「以上でエクス入隊式典を閉会とする。最後に配属辞令書を受け取り、配属先の支部長のもとへ移動してくれ。本部配属になった者はこの場に戻ってきてくれ。以上、解散!」


「私たち同じ隊に入れるかな?」

とエリカはユーマに尋ねた。

「まあⅯ03コロニー支部配属は確定みたいなもんだし別の隊でもいいんじゃね。」

なんて軽い口調で返す。それに少し腹が立ったのか

「もうほんと女心がわかってない!ねえキーク君。」

と彼女はなぜかキークに話をふると、それに対して彼も軽く返事をするだけだった。

「男子ってこれだから・・・」

なんてやりとりをしている間に配属辞令書の入った封筒が3人に配られた。

 エリカの掛け声で一斉に封筒を開けるとそこには(Ⅿ03コロニー支部所属第31部隊に配属)と書かれた紙が3人とも入っていた。

「嘘・・・!?」

「まじか。」

と驚くエリカとユーマの目の前で

「こうなると思った。」

とキークは呟いた。その時、

「みんなこれから第31部隊の仲間だね。」

と向こう側から歩きながら笑顔で結芽が言ってきた。

「そうなのよ結芽ちゃん!これからもよろしくね。」

「みんな一緒だと、なんだか何にでも勝てそうな気がするぜ。」

なんてことを言っているエリカとユーマの目の前でまたキークが

「てか、なんでわかったの?」

と結芽に聞いた。

「実はねえ・・・。」

と彼女は振り向き、その先には照正の姿があった。

「こういうのは隊長に誰々があなたの隊にはいりますよーっていう通知が事前に行くみたいで、」

「照さんから聞いたのか。」

「そういうわけです。」

と言いながら結芽は楽しそうに笑った。


今日からは1つのミスも許されない過酷な世界に入ることになる。俺は今日から同族狩りをしなければならない死神の人形になり果てる。完璧な人間でも、完璧なアザンでもない俺を受け入れてくれるこいつらがいる限りは、この命を人間に捧げる。

と、楽しそうに会話をしている3人の顔を見ながらキーク・深里は誓いを自分自身に立てた。


 3日後、彼らとその家族はⅯ01コロニーで少し観光をした後、Ⅿ03コロニーへと戻ってきた。帰ってきてすぐに3人は第31隊の正隊員になるための手続きを済まし、支部の敷地内にある建物に来ていた。

「よしお前ら、ここが新しい家だ。」

そう照正が大声で言うと、結芽が補足するように

「第31隊のみんなはここで生活しているの。ちなみマナさんや整備班の人達みたいに私達の部隊専属のスタッフもここで暮らしているんだよ。」

そんな会話をしていると、ユーマとエリカの家族が揃って大きな荷物を持ってきた。いわゆる引っ越しのお手伝いだ。家族は隊長である照正に我が子をお願いしますとあいさつをしてから、建物の中へ入っていく。その中でユーマの父親だけは会話を持ち掛けてきた。

「まさか息子をこの年で独立させると思いませんでしたよ。」

と彼は微笑みながら言った。

「保護者があなたから私に変わるだけですので独立と言えるか微妙ですけどね。まあ、訓練課程を半年で終えた優秀な人材なのできっと大丈夫ですよ。」

という照正に、そうですなと返事をしながら2人は笑った。

「改めて花川隊長、不器用な息子ですがよろしくお願いします。」

そう言うと彼は他の家族とともに引っ越し作業に入った。


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