Ep1-3
翌日、目撃者である理科室にいた人物を呼び出した。キーク・深里というアザンの情報を隠すためだ。一応、会議期間中に情報が漏れないために監視はしていたが、彼が軍人になると決定した現状では監視などのぬるい選択ではなく、本格的に隠蔽する必要があるのだ。
取り残された7人は記憶が混乱しており、彼がアザンだったことは知らなかった。だが、問題は例の3人だ。この3人はキークの親友であり、あの場面の記憶は鮮明に残っているはずだからだ。結芽は現役軍人だからいいものの、ユーマとエリカがもしアザンに恨みがあれば、無理やり記憶を消す必要が出てくる。
3人は照正とキークに向かい合わせの状態で長机を5つ挟んで座った。その時エリカとユーマは口を揃えて、生きてて良かったと言った。
「結芽ちゃんがもしかしたら会議の判決次第では処刑されちゃうかもしれないって言っていたから私・・・」
とエリカは最後まで喋り切れずに号泣してしまった。その横で結芽も目を赤くしながら涙を必死でこらえていた。きっと彼女は軍人としてそこに座っているから泣かないのだろう。
「君たちの感動の再開を邪魔するみたいで悪いんだが、本題に入ってもいいか?」
と照正は少し低い声で言った。
「彼は来月より軍の訓練校に入り、軍人として軍の管理下に置くことになった。その際、外部にアザンが軍内部にいるという事実は隠したい。君たちがどうするかで彼の人生が変わってくる。聞こう、君たちは軍の最高基準の機密事項を秘匿できるか?もちろん世間にこの事実が知れるようなことがあれば、リーク元を問わずに君たちは抹消されることが確定するが。もし、それが嫌なら記憶を消すことも我々の技術なら可能だ。」
3人はお互いの顔を見合わせ、何も相談せず、タイミングも合わさずに同時に答えた。
「秘匿できます。」
するとその後ユーマは続けて、
「まあ、キークが何者だろうが親友には変わらない。そうだ照さん、俺も軍の訓練校に入れてくれないか?」
その一言で皆はユーマの顔を見た。
「いや、キークという存在が軍の機密事項なら、それを知っている人間は軍の管理下にあった方がいいだろ。」
彼のその意見にエリカは納得した表情を浮かべ。
「それなら私も入校させてください。親友だからこそ近くで支えたいんです。」
それを聞いた照正は呆れたようにため息をついて、
「6か月だ。キークに与えられた時間はそれだけ。それまでに正式に隊員になれないとこいつは解剖班に回される。もちろんサンプルとしてな。これは君らもそれまでに正隊員にならないと記憶を消すことになるってことだぞ。」
「彼の記憶は失いたくないから、やってみせるよ。」
と言うユーマの横で結芽は少し大きめの声で
「待って!私でも10か月かかったのよ。平均的に2年かかるのに、そんなの不可能じゃない!」
と照正の方を向いて言った。
「不可能じゃねえよ。俺と将は6か月で十分だったぞ。入校については俺が上に入校テストを免除してもらえるように頼んでやる。どうせ実力社会だ、筆記テストなんて上官に逆らわないような真面目な奴の選定にしか使ってないしな。」
それを聞いた結芽は大きく息を吸い、
「わからないことは私が教えてあげるね。一応、軍の中では私は先輩だから軍の人がいるときは少し遠慮しながら喋りかけて。それ以外は普段と同じでいいよ。」
と言いながら彼女は涙の溜まった目でニコッと笑った。
これは今から起きる時代の小さな欠片の一部分にしかすぎない。しかし、この一部分が大きく変化することによって何がもたらされるかは誰も予測できない。彼がこの世界において伝説になるか、厄となるかは、気付くことができないだけで、もう決まっているのかもしれない。
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