Ep1-1

校舎にチャイムが鳴り響く。500年前からその音色は変わらず、学生はその音を中心に生活を行う。前の授業は護身術の実技だったが男子は授業終了の鐘がなったタイミングにはすでに教室で楽しく会話をしていた。数分後には女子も教室に戻ってきてさらに賑やかになった。

 頭を伏せて眠ろうとしている男子の周りに1人の少し筋肉質だが着痩せをしている男子と、短髪と長髪の女子二人が集まってきた。すると男子が

「いやー、やっぱ戦闘系の実技だと俺はキークには歯が立たないよ。な?」

と言ったが、キークと呼ばれた男子は顔を伏せたままそれを無視した。

「ユーマがキーク君に勝つにはユーマが50人くらい必要かもね。」

と長い茶髪の女子は嫌味を放つ。

「エリカみたいなお嬢様には男の世界はわからねえだろ?こういうのは数じゃなくて努力が解決するんだぜ!なあ、結芽?」

結芽と呼ばれた短髪の女子は苦笑いしながら、

「私は一応軍人だからわからなくもないけど、女の子だよ。」

するとすぐにまたエリカが嫌味を放つ。よくこんな会話を眠ろうとしているときにされるが、キークはそれが嫌いではなかった。

「キー君、そろそろ次の授業が始まるよ。」

結芽はそう言いながら彼の肩を軽くたたいた。すると彼はゆっくり起き上がって、

「こんなにも周りでギャーギャー騒がれたら、寝れるものも寝れない。」

それに反応してすぐにエリカがユーマに「あなたのせいね。」といい軽い口喧嘩を始めてしまう。

 平和な世界。平凡な生活。いつでも自分のいる場所が戦場になるかわからないこの世界でこんなにも人は笑えるのかとキークは時々思う。そして自分がその中にいることに幸せを感じる。それと同時に違和感もする。ずっとここに居たいと思う。距離を置くべきだとも思う。なにが正解でどこまでが願望なのかわからなくなる。

「でも、このままでいいや。」

そう彼は呟いた。



 校舎の奥から爆発音がした。今、キーク達がいる階の奥の方からだ。おそらく距離は、とキークが考えていると、

「たぶん理科室、みんな落ち着いて校庭に避難して!原因はわからないけどパニックにならないように。」

結芽はそう叫びながらカバンの中からハンドガンを取り出し、耳に無線機を取り付けた。B級装備か、とキークは思いながら自分も避難しようとする。すると奥から叫び声が聞こえた。

アザンがなんたら、人類はどうたら。

「みんな落ち着いて!ここには現役軍人の花川結芽さんがいる。人類は200年前にアザンから宇宙に逃れるためにあらゆる科学技術を放棄したが、彼女の武器は奴らに対抗できる・・・」

と教師の1人が皆を安心させたいのか、対アザン装備の説明を叫んでいる。

「先生!爆発の原因はアザンだと思うので、私は理科室に向かいます。避難誘導お願いします。」

そう言い残し、結芽は奥へと走っていった。それと同時に館内放送が響き渡った。

「こちらはエクスⅯ03コロニー支部所属第31部隊専属オペレーターのマナ・クラインです。現在、校舎4階の理科室にてアザン細胞による暴走者が確認されました。ただいま、第31、33、34の3部隊がそちらに向かっています。残り5分ほどで到着の予定ですので、皆さんは落ち着て校庭に避難してください。」

その放送を聞くと生徒は、助けがくるぞと希望の声を上げる。そんな中、

「結芽を助けなきゃ!」

とユーマは言いながら理科室の方へ行こうとし、それに続きエリカも私もと言いながら奥へ走って行った。

「さすがにあのメンバーだけだと死ぬかもな。面倒くせえ・・・。」

と言いながら、キークも奥へと小走りで行った。


「マナさん、私のC級及びB級装備の使用許可お願いします。」

結芽は走っているせいか少し荒れた息遣いで言った。

「すぐやるわ。・・・使用許可受理、花川結芽一等兵のC級装備ならびにB級装備の作戦行動終了までの使用を許可します。」

それを聞くとすぐに彼女はスカートのベルト、服の襟、髪留め、の順に軽く触れた。すると制服型のC級装備はその見た目を変えずに起動した。彼女はハンドガン型のB級装備に弾を装填させるとすぐに部屋に飛び込んだ。

 銃を向けながら辺りを見渡すと1体のアザンと11人の人影が見えた。11人の内4名は死亡しており、残りは部屋の隅に身を寄せ合っていた。目標のアザンは唸りながら黒板に攻撃していた。理科のカール先生だ。

「目標を確認。能力は不明。生存者は7名。先の爆発は能力によるものか薬品によるものかは現状ではわかりません。」

どうして飛び込んだの、とマナが無線機の向こう側で呟くのを聞きながら結芽は思考を止めてしまった。恐怖だ。しかし、数秒後には恐怖は絶望に変わってしまった。ユーマとエリカが理科室に入ってきてしまったのだ。

「どうして!?」

「女の子1人に戦わせるわけにはいかないだろ!」

「親友をほっておくなんて私にはできないわ!」

2人の顔は笑顔だった。死ぬかもしれない状況での2人の顔は彼女の恐怖をさらに煽ってしまったのだ。

 彼女は恐怖で止まってしまった思考回路を無理やり回そうとする。目標を本隊が到着するまで足止めするか、いかにこの場所にいる非戦闘民を無事に守り切るか。現場経験がたった1年しかない彼女には親友2人を巻き込んでしまう作戦しか立てることができなかった。

「ユーマ君!私と2人で敵の注意をひきつけながら3分間逃げるよ!敵の視界に隅っこにいる子達が入らないように気を付けて!エリカちゃんは彼らが避難できるタイミングを見計らって指示を出してあげて!それまでは貴女も隅に居て!」

 結芽の掛け声に無言で頷き、2人は走り出した。

「照おじさんがくるまででいい。それまでは・・・」

彼女はそう呟くと、ユーマの動きに合わせて反対側を、銃声を上げながら走った。


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