第2話 蛟龍と山



現在のfree cityは都市であるのだろうか。


都と呼べば華やかで、人も多く賑やかで在るべき場所だ。


常にそうである事だ。



深い藍色アイイロに染まるウロコ紋判モンハン朱菊シュギク花押カオウに包まれた蛟龍コウリュウは、伝説の英雄である。


一つ、大昔、蛟龍はハニが土手に並べられた埴宿ハニヤドに住むラノリン族を救ったという話がある。

荒れ狂う大嵐で闇雲がうねり、木枝は凶器に変貌した。次々と埴も砕かれ村は崩壊寸前であった。土手も崩れ始めラノリン族が家を失いかけた時、天から山を動かし、洪水を止めたのだ。


ラノリン族の人々は、茴香ウイキョウを育て、その香りにイザナう。

黄褐色キカッショクに染められた衣服を身にマトった

妖艶に美しい妖花ヨウカ民族であった。

土気色ツチケイロの土壁で固められた小屋の中には、羊も飼われており、ラノリン族の人々は羊毛を紡ぎ、羊毛に光る青白い軟膏ナンコウを練り上げて、肌が生まれ変わるという、ラノリンクリームも製造していたのだ。


蛟龍が山を動かしたおかげで、雨風もシノげ、穏やかになった村には人々が大勢集まり城も建てられた。

ラノリン王国の誕生だ。


水中にヒソムむ蛟龍は、雲が空を覆い、雨が嵐に変わると、水底奥深くから天空に昇り、災難にあった人々を救うのである。


都には王が住む。

その城下町へと行くのであれば、そこが本当の都だ。


賑やかである事だけが都ではないが、一つの境界が出来た所で、ある時の闘争が起こる事もある。

人々が作り上げる事に数の決まりは無いのだが、その自由とは何処にあるのだろうか。


茴香の香りは料理の味付けに喜ばれ、とても人気がある。

人気があるのであれば皆が求める。

人気がある物であるのに一つの境界内のみでと、その一握りで進める事は危険である。

世界中に有名になり、そして誰もが欲しがるであろう。

宝が集中すればそこへ狙い撃ちと、ウルフ・ソードが全てをさらって行くのだ。


新道と旧道の4車線。

封鎖されたトンネルには、家も車も人もいない。

そこにある空間は、幻ではないのだ。

一部が好んでいる路線をひたすら走るのは、時に渋滞も引き起こす。

簡単に新道を作るのは、都への近道。

お座敷列車のローカル線でパーティを開けば、それこそまるで自宅だ。

但し、今の俺達には、通りだろうが山の中だろうが、サンフォライズT・Jの為にも、この目標を達成しなければならない。


新しい土地、まだ未開の地であれば、争いは無い。

時を長く、時間を持つ。

無駄に思わず長く考える事だ。

そうすれば、きっと幸せを手に入れられる。

封鎖されたトンネルに俺達は的を当てた。


静かなトンネル内には大型プロジェクターを設置し、夜空に広がる星空から一転、ライト玉を1面に広げた。

レバーを上に引き上げると、グリーンコートが現れる。

水滴と温風音オンプウオンに乗りながら、ライト玉は天井から床へ、床から天井へと、交差し、点滅を繰り返す。

水音が鳴り響けばソナーが音を立て、風音カザオトが鳴りと、トンネル内のfree cityは、一日限りのマーケットとなった。


「あれは?バルキー。チューロがトンネル横の鉄ハシゴに登ってるけど、標識でも持ってくるのかね。」


「抜け道があると話していましたが。」


「どこに?」


「峠から山を見たら、旧道と新道に挟まれてるから、あの山は元々はトンネルなど掘らなくてもいいはずだったと。」


確かに、新道とトンネルへ続く旧道は、二車線とも、本線と繋がれた新車道である。山の上には別に、さらに旧道とも思える道があるのだ。

同じものばかりを繰り返し作って行くと、この先には何も残らない。

俺達のマーケットには、似たような物を作る者などはいない。

この様な残されたトンネルが、世の中には溢れているのだろうか。


「鉄ハシゴを一周すれば、私のマラガを収めて、窓でも付ければゴロッと、こらせっと。」


「住めば都じゃない、チューロ。」


「歌おうか?」


「尊重しているのですね、この場を。」


「ソールが連れて来たのですよ。

トンネル掘ってしまって、いらないんじゃ、チューロもらっておくよ。」


「渓谷の滝と、山桜が都心にあるのって、束縛と占領の現れでしょう。

ナチュラル大好き!って。

なのに、自然破壊だって責められると恐くなり、自己嫌悪に陥り、不自然を作ると・・・。

都市開発ばかりを進めるのはどうなんだろうね。マーケットは中味だからね。

一日限りと言ったって山の中までも来場者は沢山来たじゃない。

こんなオンボロトンネルだってさ。

俺達の路線も気に入られたよ。」


そう言うとソールは、マーケットで売られていた、シープミルクを皆に配った。


「いやぁ、ソール、心の底から、全てを動かそうと支配する者も。

幸運にも俺達が見つけたが、お決まりの法則に挟まれたら・・・。」


「持って行かれたら無くなりますからね、この場からは。」


後孝コウコウに待つと申してるんですかね。」


「バルキーも、チームラフラムに、見つからないようにね。」


「こっちのものが欲しいんじゃ、ラフラムの城と取り替えてくれればいいだろ。」


「まさしく。まぁ、サンフォライズT・Jは取り替えませんけどね。」


「いい城に住んでいながら、なぜラフラムは力を奪うのだ?」


「情報の立体化。原っぱから芽を出す草花の予想は、髪の毛の本数を数える位大変だろ。ラフラムの奴ら、見つけては、本当の良いものを隠そうとしているのかも。」


「ソールは、トンネル見つけて、マーケット続けるのですか?」


「住むよ。とりあえず。」


「大きいですけどね。トンネル。

ラフラムに見つかるんじゃ・・・。」


「チューロは、マラガフローズンで、少し熱冷まして。

マーケットで好評でしたよ、チューロの温度計。」


「ええ、鏡も合わせた形のモノも、喜ばれました。」


早起きのチューロは、ヨーグルト配達の為、3輪バギーでの移動も多く、気温を測る為にと、自作の温度計を作り部屋に置いていた。

チューロの温度計は50センチ程の大型の温度計で船内の白色と美味しいヨーグルトにも合うからとサーモングリーンに色を付け、金箔で縁取りをして真鍮の金具が付けられたものだった。


サンフォライズT・Jも気に入って、もう一つ創った温度計は、年に一度の、ソフィストオークションで高値を付け、チューロは、配達の後、創作する事に。


「チューロに、もう少し広い工房があればね。」


「と、探したのが、このトンネル。」


「もらっていいんだね。チューロ。」


「バルキーも、天助さんも、私も住むから…。

まぁ、このトンネルに住むまでには、サフラン一g集める位、大変な時間がかかるけれどね。」


チューロもバルキーも、マーケットの終了後、トンネルのある山を眺めた。

静まり返ったトンネルには、夜空を映し出していくつもの輝く星空が広がっていた。





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