サンフォライズT・Jの囊中

牧野 ヒデミ

第1話 夜明け

サンフォライズT・Jのプレゼントpic upが伝声管デンセイカンから流れると、3キロ先からは、サフランスモークが立ち登り、朝日にかかる積雲セキウンの切れハジに結び付いた。


「それじゃ、私、受け取りに行ってきますから。」


日課である、チューロのセミのエサは、赤道板色セキドウバンショクに色付ける為のマラガ。


好物でありながらも、しょうがなさそうに、朝一番で受け取りに行く。


天助テンスケさん、いらないってね。やんぬるかなぁ、眠ってばかりでは、イタチバサミに持っていかれてしまうよねぇ。ドロボウも、案外忙しいですから、秒針をくるくると回してね。

この前のスクープだって逃しましたよ。通気口を利用した備え付けダストBOXの発明者ともビール飲んでいたくせに、消えた、消えたってハシゴして。

バイオエネルギーの薬物混入事件だって取材するのチームラフラムでしょう。」


「ご関心の妨害ってやつだよ、チューロ。どっかの回路混戦中。

渋滞してる方が良いの。

そんなもんだよ。ね、ソール。」


「そうそう。そうだよね。

辿タドリり着け、我先に。

だから、天助さんヘリコプター飛ばしてるでしょ。」


「天助さん、眠っちゃって。」


「おっと、バルキー、

眠らずに生きれまいよ。

食べずに生きれまい。

創造するのは、未来星人の出来損ないか。」


「チームラフラム、骨折犯ですよ。

天助さん、ヘリ飛ばしても、今日はこれでって。ツケを回してエスピノの木の実ですもん。支払いが。」


そう言うとソールは、出窓に置いてあった植木鉢からグァバを一つもぎると、天井高くひと投げして、美味しそうにカジった。


苦土ニガツチに植えてしまっては、一年待っても育たないもので。

街中に不自然な自然を作っては、自由で無くなる。

趣きのあるナチュラリストが鉄格子で物品報酬に変わり行けば、不自然な配給制のペアルック。


チューロは、大量のボタンを縫い付けた燕尾エンビジャケットに、ワークパンツを履き、三輪バギーのエンジンをかけると、荷台に幌布ホロヌノをかぶせ、3キロ先のサフランロードへ走って行った。


「チューロも出発したし、バルキーは稽古でしょ。」


「ソールは?稽古といっても、今日は歩道橋下の公園へ壁打ちに行ってきます。

スカッシュコートは明日予約してるので。」


「音は出すの?」


「明日はまだ。エレクトリックパネル制作に必要な音源をもう少しさがそうかなと思ってね。」


「舞台は、湖って聞いたけど。バルキー白鳥になったか。」


「ははは。ソールも飛ばすよ。

静かな湖でね。岸辺は広々としていて、

奥に広がる森も大木が多い。空気が澄んで湖が見渡せるんだ。湖畔コハンの周りを木々が半円ほどオオっているので音の反響もいいんじゃないかって。音を聴きながらのんびり休めるよ。

今回はサンフォライズT・Jがそこでって。」


「最近、フラッパーもプラチナチェスでナイトを良く使うから。

少なくなったってね。

ミラクルスペースに、もう足跡があってさ・・・。

シュプールに沿って、エスピノの種を転がして、巨大な雪だるまで通行止めだよ。」


「チームラフラムのコンデンスメーター、三碧サンペキに付いてるでしょう。

ブラックホールに見せかけて、突風であっという間に集めちゃうから。」


バルキーの壁打ちも、サフランスモークが光っているのを見れば、今日も人がアフれるだろう。


今ではパフォーマーとして人気者のバルキーだが、彼が元々はテニスプレーヤーだった事を知る者は少ない。当時は、ユニークなスピードプレーで期待されていたと聞く。

無駄な力を抜いた軽やかなスマッシュ。長い手足を巧みに使い、どこへ打たれようが、バルキーのピンポイントは一打、二打と見事に決まっていた。

風をさらい、ラケットが消え、見えなくなるという。勝利数も多いのに滑らかな線の細さからか何故か選手生命は短かかった。

別れ道となった大会の決勝戦では、3対3のデュース。

接戦の末、決め球のスピンサーブを返されて、相手のボレーからコーナーへのスマッシュ。決まったと思われたが、バルキーのスマッシュはラインを超えた。

判定に疑問を持ちつつも、バルキーは敗退。そのまま引退した。


その後、バルキーはパフォーマーになった。

夕暮れの公園でリズムBOXを歩道に並べ、音に乗りながら軽快に壁打ちをしていた。

光が見えたと聞いた。

その時のバルキーにサンフォライズT・Jが声を掛けたのが始まりとなる。


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