第7話【死滅】
「君に才能なんて無かったよ」
恩師は僕へ冷淡に告げた。
「君よりも素晴らしい才能を持った少年は、今も君の身近にいるがね」
僕はその言葉に、ぐうの音も出なかった。
知っていたのだ。
そんな事、とうの昔に。
だけど僕は……そう、こうして誰かのせいにしていた。
僕には才能がある。
其れが故に、僕は呪われていた。
そう思い込み、そう有って欲しかったが故に。
「真面目になりなさいな」
言い捨てて、恩師は講演会の席へ立ちにその場を去った。
僕は……僕は、死よりも苦しい道の始まりに立たされたのだ。
呆然としたまま帰路を歩く中、様々なものが見えた。
かつての友人、かつてのまた別の恩師、かつての、かつての、かつての……かつての輝き?
否。
その時、恩師がついさっき紡いだ言葉たちが思い出された。
「君は莫迦正直なのに、どうしてそう悪びれるのだ」
「私が君を褒めた時、それは君が真面目であろうと努めた時だけだ」
「彼は君達の内誰よりも文学を愛していた。それが故に彼は才能に恵まれたのだ」
僕は、最早暗鬱さえも取り零した。
真なる虚無の中を歩いていた。
そんな時だった。
僕は、見覚えのある顔が目に入った。
それは、かつての後輩……最早今の僕が後輩等と偉そうに言える立場ではないが……であった。
僕は逃げようかと思い、彼の視界から離れた。
否。
それではいけない。
恩師はそう言われていた。
そして、僕もそう考えていた。
僕は彼の元へ駆け寄った。
みずぼらしい格好をしている事すら顧みず、彼の前へ立ち、
「ごっ、め、ん゛な゛さ……ぃ」
久々に声を出した。
余りにも弱々しい喚きだった。
何を言っているのか、彼は聞き取れたのだろうか。
或いは、僕が誰なのかもひょっとすれば分からないかもしれない。
不安と、恐怖と、後悔と……あらゆる負の感情が僕の胸中に積み上がり、息苦しさをも覚えた。
彼は言った。
「やめて下さいよ」
僕は、その言葉の意味を聞き極められなかった。
故に……恐るおそるであった。
僕は、彼に殴られる覚悟で顔を上げ、彼の顔を見た。
そこに優しさがある様な気がした。
それでも僕は、彼へ謝る事しかできなかった。
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