第6話【暗鬱】

 僕は停滞している。

 また筆が折れて暫く経った。

 僕にはもうこれしかないというのに。

 その筆すらも、再び折れてしまった。

 ぼんやりと天井を眺める。

 何も見えない。

 かつてはそこに、白い楼閣があった。

 白い巨人があった。

 黒い男もいた。

 みんなどこかへ消えてしまった。

 僕に愛想を尽かして、去ってしまった。

 遠くから、やんちゃな吠え声が聞こえる。

 彼は順調に成長し、今や抱きかかえる事すら出来ない。

 一方の僕はどうだ。

 肉体と比例して、精神は細く、薄くなってゆく。

 足がふらついて、目の前がよく見えない。

 僕はまるで死人だ。

 精神が空虚に至り、全て無くなってしまいそうになっている。

 死のうか。

 いや、死ぬ勇気すら無い。

 誰かが殺してはくれないだろうか。

 いいや、迷惑は掛けられない。

 それに人を殺した経験なんて、不健全だ。

 ……僕は停滞している。

 ここから進むのに必要なことは何だろう。

 何だろう。

 いや、そうじゃない。

 何か外が騒がしい。

 重い身体を引きずりながら、僕は窓に到達し、カーテンを開けた。

 窓の向こうの道に、若い男女がいた。

 高校生くらいだろうか。

 道端に座り込んで、二人で何か話し合っている。

 可憐な少女と不釣合いに、男は醜かった。

 だがその眼が輝いていたのは、少女の方であった。

 僕は覚った。

 あの子は欺かれているのだと。

 可哀想に……。

 僕は息が詰まりそうになって、思わず音を立ててカーテンを閉めてしまった。

 暫く、沈黙がそこにあった。

 やがて、何かに怯える二つの話し声が、遠ざかっていった。

 その時だった。

 僕も恋をもう一度してみようかな。

 そう思ったのは。

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