逆転バレンタイン

「あの、これ受け取ってください!」


 俺の目の前にいるのは短めの髪に、子供っぽくて可愛らしい顔つき。

 名門校の制服を着た、背の低い子だった。


 そしてその子は目を閉じ、やや震えながらラッピングされた箱を俺に差し出している。


「えっと、何故?」

 思わずそう言ってしまった。


「だ、駄目ですか?」

「いや、何故俺に? てか君誰?」

 知り合いにこんな子はいないし、そもそも俺の友達に名門校に入れる奴などいない。


「お、覚えてませんか? ほら、以前駅のホームで」

 駅で? ……ああ。


「あの時の?」

「は、はい。あの時のです。鞄の中身が散らばって、それを集めるのを手伝ってもらって」

「そうだったね。じゃあそれ、その時のお礼? そんな事気にしなくてよかったのに」

「それもありますけど……ボク、あの時からあなたが」


「え? あの、それってもしかすると、バレンタインのチョコ?」

「は、はい。あの、受け取ってもらえないですか?」

 

 やはりか。だが

「その前に確認させてくれない? 君、もしかして女の子?」

「いえ、れっきとした男です」


 そうだよな、顔つきは女の子っぽいが、男子の制服着てるし。


「じゃあ君は」

「そんなの関係ないとボクは思ってます。けどあなたが無理だって言うなら」

 そう言って彼は項垂れる。


「うん。申し訳ないけど、俺は同性は無理だ」


「……そうですよね。ごめんなさい」

 彼はそのまま去ろうとしたので、俺はそれを止めて尋ねた。


「ねえ、もう一つ確認させて」

「え、何をですか?」

「君は女の子は駄目なの?」

「いいえ。さっきも言いましたが、好きになったらそんなの関係ないです」


「それなら、返事はOKだ」


「へっ? で、でもさっき、同性は無理だって?」

 彼は訳が分からず戸惑っているようだ。

 ああ、ちゃんと話さないと分からないよな。


「俺、これでも女なんだが」


「え!?」


 そんなに驚かなくても。

 そりゃ背も高いし髪も短いし、顔立ちだって父親に似てるし、服装だってうちの学校は私服だから、いつも黒いジャケットにジーンズだもんな。


 と、いうか

「俺さ、男子にそんな事言われたの初めてなんだよ。いっつも女子からばっかだったんだよなあ」

 だからさ、ちょっとドキドキしてる。


「そ、そうでしょうねって、女の子だったんだ。何か逆ですね」

「いいじゃんそんな事。ところでさ、この後予定あるの?」


「え、いえ別に?」

「じゃあさ、どっかでこれ食べながら色々話そうよ、ね」

「は、はい!」



 と、こんな調子で俺達は出会い、見た目が逆転してる恋人同士になったんだ。

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