家族の思いと夢

 むかしむかしある国に歳をとった太后様がいました。


 この太后様、その昔に夫である先王様が強大な敵と戦って命を落としてからというもの、毎日毎日泣き暮らしていました。



 太后様には一人息子がいましたが、息子は先王様の後を継いで新しい王様となって忙しい毎日だったので母親である太后様を慰める事はなかなかできませんでした。


 なので息子の奥さんである王妃様とその子供である幼い王女様と王子様が一生懸命慰めたのですがやはり先王様を思い出しては泣いてしまうという日々を過ごしていました。



 そんなある日の事でした。


 太后様がお城の窓から外の景色を見ていると


「う? く、苦し」


 太后様は突然胸を押さえて倒れてしまいました。




 そして気がつくと太后様は辺り一面真っ白な場所にいました。

「ここはいったい? 私は城にいたはずなのに?」

 太后様がそう呟いていると、向こうの方から誰かがこっちに向かって走って来ました。


 それは白髪頭の老人のようでした。

 そしてその老人が太后様の前まで来ると。

「おお、すまんのう、間違えてしもうた」

 そう言いました。


「は? 間違えたって何を?」

「いや、お前さんはまだあの世へ行く時じゃないんじゃがの、別の人と間違えてここに連れてきてしもうたんじゃ」

「はい? じゃあもしかして私は死んじゃったって事?」

「すまんのう、その通りじゃ。じゃがすぐ生きかえらせるのでな」

「あの、できれば生き返らせないでこのままあの世へ連れてってもらえないかしら? あの世にはきっとあの人が」

 太后様は言いました。


「それはできん。そんな事したらワシは消されてしまう」

「消されるって誰に? あなた神様じゃないの?」

「ワシは神に仕える眷属じゃ。神ではない」

「そうなの? ……このままあの人のところへ行きたいけど、あなたが消されてしまうのでは無理は言えないわね」

 太后様はガックリしました。


 それを見た老人は太后様に言いました。

「もしよければ少しの間だけじゃが、旦那と会わせる事はできるぞい」

「え、そんな事できるの?」

「ああできるとも、間違えて連れてきたお詫びのつもりじゃ」

「じ、じゃあ早速」

「待ってくれ、お前さんを先に生き返らせてからじゃ。あまりここにおられるとこっちも困るでのう」

「そうなの? じゃあ生き返らせて」

「わかったわい。ほい」


 老人が持っていた杖を振りかざすと太后様は気を失いました。




「あれ? 私どうしたのかしら?」


「母上、よかった」

 太后様が目を覚ますとそこには泣き顔の王様がいました。


「お義母さま……」

「おばあさま!」

「ばあちゃん!」

 王妃様や王女様、王子様も泣いていました。


「……皆、心配かけてごめんね」

「いいよばあちゃん。ちゃんと起きたんだし」

 幼い王子様は涙を拭おうともせずに言いました。


「よしよし。……私はあの人の事ばかりで、この子達が私をこんなにも愛してくれているのを少しも見ていなかったわ。うう」

 太后様は家族の思いを感じて泣きだしました。


 それからの太后様は以前のように泣き暮らす事はなくなり、少しずつではありますが元気になっていきました。


 そんなある日の夜、太后様は夢を見ました。

 夢の中での太后様は若い頃に戻っていました。

 隣を見るとそこには若い頃の先王様がいました。

 そして二人はいろんな事を話しました。


 出会った時の事や一緒に旅をした時の事、行方不明の……の事などを。


 そして


「そろそろ帰らなければならん、すまんな、苦労をかけて」

「いえあなた、私は大丈夫よ。皆がいるからね。今日はお話できてよかったわ」

「俺もな。では皆を頼むぞ」

「はい、じゃあいつかまた会いましょ」

「ああ」


 目が覚めた太后様は思いました。


「あの眷属さんのおかげかしら? そうよねきっと」




 それから何年かが過ぎたある日の事。

「おい! 見つかったか!?」

「いえ、どこにもいません!」

「ぐ、おのれあの母め、いったいどこへ行きやがった!」

 王様は乱暴な口調で言いました。


「あなた。これがお義母様の部屋にあったの」

 王妃様は王様に手紙を渡しました。


「ん? なになに……なんだと!」

「何が書いてあったの?」

「あいつらの後を追って旅に出る、と」

「はいい!?」




「と書いといたけどね~、せっかくだからあちこち見て回りましょ」

 太后様はそう呟きながら道を歩いていました。

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