異世界で24時間だけ勇者して……を守った
「ふう、またかよ。これで何度目?」
目の前には真っ黒なモンスターがいる。
「そう言わないの。これが仕事なんだからね、勇者様(笑)」
相棒の女戦士が剣を構え、笑いながら言う。
「勇者って。俺はふつーの会社員なのに」
「それ言うならあたしだってふつーのOLよ」
そしてモンスターを剣でぶった切った。
もう何度目か覚えてない。
俺は会社への出勤途中でトラックにはねられたが、異世界転生のテンプレで女神が目の前にいた。
だがその後が少し違っていた。
女神が説明してくれたが、どうやらミスったとかじゃなく頼みがあって呼んだそうだ。なら普通に呼べよ。
で、頼みとは今俺達が守っているもの、高さ二メートルはある白くてでかいタマゴ
を今から二十四時間だけ守ってくれ、という事だった。
そして気がつくと俺の隣に彼女がいた。
彼女は会社の同僚で、同じく女神が呼んだそうだ。ただ彼女は朝飯に食べた饅頭が喉に詰まって死んだそうだ。
だから普通に呼べねえのかよ?
と、まあ俺達は女神から力を与えられ、俺は勇者、彼女は戦士としてタマゴの前で待機する事になった。
あとこれが終わったら俺達を元通り生き返らせる、とも言われたし。
「しかしこれって何のタマゴだよ?」
「知らないわよ。でもあたし達に関係あるものだって言ってたわよね」
「うーん。ま、あれから十二時間経ったし、あと半日だな」
「そうね。ここって真っ白で暗くならないけど、時計みたらもう夜0時よ」
「もうそんな時間か。よし、それじゃ交代で仮眠するか?」
「うん。じゃああたしが先に寝ていい?」
「ああ」
その後四時間程経ってから彼女と交代し、俺も同じ位仮眠をとった。
残りはあと四時間。
その間モンスターは来なかった。
もう打ち止め? と思った時
「うわあ、何か凄いのが来たよ」
「てかあいつってラスボスじゃねえか?」
やって来たのはいかにも大魔王って感じの奴だった。
「勝てるかしら?」
「知らん。だがやるしかないだろ」
そして四時間に渡る激闘の末、俺達は大魔王を倒した。
そしてもう二十四時間経ったな。
これで終わりか、と思った時。
「ねえ見て、タマゴが!?」
彼女の叫び声を聞いてタマゴを見ると、中から殻を破るような音がしてヒビが入ってきた。
やがてタマゴが割れ、そこから出てきたのは……赤ん坊だった。
どうやら男の子みたいだな。元気よく泣いてるよ。
「この子っていったい?」
「人間じゃないわよね?」
「この子は精霊ですよ」
気がつくとその子の側に女神が立っていた。
「え、精霊って様々な物に宿ってるってやつ?」
俺が記憶を辿って言うと
「そういう子もいますが、この子はね」
女神がその子を抱き上げ、微笑みながら俺達に言った。
「この子はあなた達が住む星、『地球』の精霊、すなわち『地球』そのものですよ」
え? そ、その子が地球だって!?
「でもそれってどういう事? じゃあ今の地球って何?」
「わかった! 女神様、ここってもしかして過去の世界ですか?」
彼女が言うと女神が答えた。
「そうですよ。ここはあなた達の時代から約四十六億年昔の世界です」
な、何だってー!?
どういう事!?
「わかんないの? もしこの子が生まれてこなかったら」
「あ、そうか! だから俺達にこの子を守れと」
「そういう事ですよ」
女神が微笑みながら言った。
「じゃああの魔物達は地球を消そうとして? でも何で?」
「それはですね、地球には他の星には存在しない力があるの。それのせいで魔物達は幾度も敗北を重ねたわ。だから魔物達は力を集めて過去へ飛んできたのですよ。この子を誕生させない為に」
「そうか……ってもし俺達が途中で倒されていたら」
「いえ、あなた達なら大丈夫と思ったからお願いしたんですよ」
そうだったのかよ。
「ごめんなさい、ちゃんと理由を話せばよかったかもしれませんが、それでは気負い過ぎてしまうかと思って」
たしかに俺なんかはそんな事聞いたらガチガチになってたな。
彼女はどうか知らんが。
「お二人共ありがとうございました。ではそろそろ元の時代に……あ、戻す前にあと一つお願いしていいですか?」
「え、何ですか?」
「この子を抱いてあげてください。この子はきっとあなた達を両親のように思ってるでしょうから」
「え? ま、まあ」
「じゃああたしからね~。よしよし、ママでしゅよ~」
その子を抱く彼女の姿は本当に母親のように見えた。
「では俺も。僭越ながらパパだよ。……元の時代でまた会おうな」
そこで意識が途切れた。
「あ、おはよー!」
「おはよ。ああ、何か変な夢見たわ」
「あたしも見たよー。あんたが勇者であたしが戦士で。てか夢じゃないでしょあれ」
「やっぱそうか。あれは本当にあった事か」
「もし誰かに言っても信じてもらえないよねー」
「そりゃそうだ。言ったら頭おかしいとしか、な」
「ねえ、地球はあたし達の事覚えてるかな?」
「さあな? 覚えてるなら何か言えや、と思うが」
覚えてるよ~。
パパ、ママ。僕を守ってくれてありがとうね~。
「ホントに何か言ったな」
「うん。あ、あのさ」
「待て。言いたい事はわかってるが、それはもう少し後で俺から言わせてくれ」
「え、いいけど何で?」
「今言うと息子をダシにしてるようで気が引けるから」
「あ……うん!」
終
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