ヒカリ←→アキラ 11(9月)

3日ある学校祭の2日目、文化祭の日がやってきた。学校に着くと、どこからともなく模擬店なんかの、美味しそうな臭いが俺の鼻孔を突く。


お昼になった。食物部の出し物で食事を済まそう思い、俺と幸平は北館1階の調理室で座っていた。


「りんごーん」


うわっ! びっくりした。一応、学校祭の間、携帯の使用は黙認されはするが、こんなあ

からさまに連絡が来るとは……。

えと。で、誰かな~? 俺は携帯の画面に目を落とす。

『こんにちは。三枝君。文化祭楽しんでる?』

え? この子って……。

「なんだ? ラインか?」

「うん」

こくりと頷く

「ひょっとしてその子が?」

「うん」

更に頷くと、返事を打ち出す。

『楽しんでるよ! そっちはどう?』

『楽しいよ!』

「おい」

「ん?」

幸平が急に袖を引っ張る。

「あそこのあいつ。今携帯触ってるぞ。確か俺らと同じクラスのやつじゃね?」

「え…………?」

確かめようと思い、ラインを送ってみる。

『どこかお勧めの教室はない?』

『2-1かな?』

即答。目の前に座っている女子が、高速でフリック入力するところを、幸平が目撃していた。

「ほぼ決定だな」

「行ってくる」

「おい待て。もう少し様子を見てみよう」

がたっと椅子から立ち上がったが、幸平の声に一度腰を下ろす。

「…………おう」

俺はフリック入力を始めた。

『2-1ってどんな出し物してるの?』

『ストラックアウト系の出し物だったよ!』

『そうなの?』

『うん。ちょっとミスしちゃって、ハイスコアは逃しちゃったけど、とっても楽しかったよ~\(^o^)/』

続けざまにスタンプが送られてきた。

「決定だ」

幸平が耳元で、ぼそり。と、告げてくる。

「そっか。じゃあ、いってみるよ」

じとっと湿った親指をスマフォの画面に滑らせる。

『ねえ、ちょっとで良いからさ、顔上げてみてよ』

目の前の少女──同じくラスの相楽(さがら) 一美(ひとみ)が顔を上げると、俺はにこっと笑いかけてやった。相楽は顔色をみるみる変えると、そのまま調理室を飛び出して行った。

これで良かったのかな? 俺はちょっと不安になった。


←→


見られた見られた見られた見られた見られた見られた見られた見られた見られた見られた見られた見られた見られた見られた見られた見られた見られた見られた見られた見られた見られた見られた見られた見られた見られた見られた見られた見られた見られた見られた見られた見られた見られた見られた見られた見られた見られた見られた見られた見られた見られた見られた見られた見られた見られた見られた見られた見られた見られた見られた見られた見られた見られた見られた見られた見られた見られた見られた見られた見られた見られた見られた見られた見られた見られた見られた見られた見られた見られた見られた見られた見られた………………見られてしまった。これでもう終わりだ……楽しかったあのラインも終わりだ。仄かに抱いていた初恋も…………終わりだ。何もかも……全て全て終わってしまったんだ…………。

私は私の──相楽一美の頬に涙が自然と滴って来ていることに気が付いた。

「なんで……泣いてるの……

「なんで……なんで……

悲しさの涙は、他の感情を洪水の様に流していく。

残された感情。

孤独な孤独の感情は私の内部に濁流の如く流れてくる。

何も出来なかった事に対する事への悲しさ。

彼に気付いて貰えたのに、にこりとも出来なかった自分に対する悲しさ。

そして何より……最後まで何のアクションも取ることの出来なかった自分の不甲斐なさに対する悲しさ。


「フィヨー」


不意に携帯から、口笛の通知音が鳴った。今の気持ちには全く似付かない、陽気な音だった。

『今どこ? 話したいんだけど……会えない?』

考えていた彼からのラインだった。


←→


ここは図工室。俺が事を始めようとした場所。ここ本館は文化祭の展示が殆ど無いので、閑散としており、通るのも道に迷った保護者が殆どだった。


「がらがらがらがらがらがらがらが」


図工室の戸が開けられる。泣いた後のように目を真っ赤に腫れさせた相楽が入って来た。

「よう! 相楽! やっと来たか!」

一瞬相楽がびくっとする。


←→


図工室には初めて入る。一年生の時の芸術選択は書道だったし、ここの階自体、来るのが初めてだった。

がらがらと、戸を開けると、三枝君が既に待っていた。

「よう! 相楽! やっと来たか!」

びっくりした。てっきり私は怒られるもの、とばかり思っていたのに。

「う、うん。こんにちは……さ、三枝君」

三枝君はにこにこしている。私はそんな笑顔を見ていると、つい今まで思っていた恋心を思い出してしまう。私はつい、言葉に出してしまった。

「三枝君! あの、あのねっ────


←→


────もし宜しければ、僕と付き合ってください!」

お。おう! 俺!良くやった! 言えたぞ! や、やれば出来るじゃないか! 三枝彰っ!! なんか相楽が言おうとしてたっぽいけど、まあいいや! つか、やべぇ! 心臓のドキドキがとまらねえ! ドキドキドキドキ…………


←→


────もし宜しければ、僕と付き合ってください!」

はい? 三枝くん今なんて? 私、言葉遮られて何か言われなかった?? ん? よーーし! 一美よ! 深呼吸してみよか!

「す~~~は~~~~」

はい! 深呼吸終わり~! で? 今何が起こったんだっけ? ああ! そうだ告白されたんだ……誰にっ!?……三枝君に!?。

あーあーあーあーあーあーあーうーーーそーーだーー。きっと良い夢だそうなんだ。ギュッと頬を抓ってみる。あ……痛いわ……現実だわコレ。

そうとなれば私が言う言葉は1つ。


←→


「お願いします」

相楽の一言は俺の心を芯から温めていく。

夏のうだるような暑さとは違う、心地の良い暖かさだった。

「有り難う!」

俺は満面の笑みでそう言った。




「これにて文化祭を終了します。生徒は速やかに体育館シューズを持って、体育館に集合してください」

放送部のアナウンスが響く。え? もうそんな時間? 体育館ってここから1番遠いよね?

「おい! 急ぐぞ!」

俺は一美の手をぐいっと掴むと、夕暮れに染まる校舎の中を、一目散に走って行く。何だか体は軽かった。

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