その8

前回の概略:タオル星人こと高本先生は依然として動きを見せることはなかったでし。そこにミスター・シグナルこと三上先生ニューカマーでし。くちびるオバケと信号機が出会ったのでし(笑


〈えっ?あの2人、待ち合わせでもしてたのか?〉葛西先生は思わぬ展開に驚きを隠せなかった。確かに高本先生と三上先生は普段から仲は良かった方だが、待ち合わせをしていたとは夢にも思わなかったのだ。しかも互いに下の名前で呼び合ってまでいる。葛西先生の中で動揺があったが、一方で、これは高本先生の中身を掘り下げることができる好機(チャンス)かも知れないと考え、益々関心が湧いてきたのだった。葛西先生は二人の会話を聞き逃すまいと、二人により近い位置にある大パノラマ画面ブースにできる限りで息を殺しながら移動した。只今18分経過。

 それから更に3分が経ったが、高本先生と三上先生は互いに黙ったまま、同じ方向をじっと見つめたきり動いていない。待ち合わせてたんだったら普通は話ぐらいするのに、と不可解な気持ちで葛西先生は《観察》していた。2人とも、展示物に目を向けるわけでもなく、何を見ているのかは分からないが、ただある一点だけを見つめて座っていた。〈まるで死んだ魚のような目だな〉葛西先生は彼らの目を見てそう思い、メモ帳に記入しようとした矢先のことだった。

「どうして健司君は遅れて来たんだ、15分も」

と、高本先生は三上先生の方に顔を向けてこう問うた。

「ああ、済まなかったよ。ここに来ようとした途端に中山先生(D組の担任・国語教師・男)に声掛けられて、うちのクラスの生徒の件で叱られちゃってね。どうも中山先生にイタズラしたらしくてね。あ、中山先生は全然悪くないよ」

と、予定時刻に遅れた理由について、三上先生は釈明していた。それを聞いて高本先生は

「あああの人か。話が長いもんな」

と答えた。三上先生はすかさず

「でも悪い人じゃないよ。僕にもよくしてくれるし」とフォローを入れた。

「君には、な。僕には…まぁいいや、あの人とは仕事上の繋がりだけだしね」

と、少し変な雰囲気で高本先生は返事した。〈ん?何だ今の感じは…?〉葛西先生はちょっと引っかかった。何かしらの違和感を会話の中に覚えたのだ。それを解析する時間もなく、2人の会話は続けられた。

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